第232話 扉を開く
「……うーん、こっちなのか」
紅宮さんの運転する車の助手席で、小瓶の中の《妖蟲》から伸びる糸を見つめながら俺はそう呟く。
「どういう意味だい?」
と、後部座席から身を乗り出して小瓶を見つめる淳くんが尋ねてきたので、俺は答えた。
「淳くんがいなくなったコンビニ前とは正反対の方角だからさ。もしかしたら同じ場所にいるんじゃないかと思ってたんだけどな」
「あぁ、なるほど……。でも、敵もそれなりに考えているというか、見つかりやすい場所にずっといるわけはないもんね」
「そういうことだな。ま、俺もそれを見越して《妖蟲》集めをしてたわけだが。二匹いるから予備もあるし、万全の体制だ」
「目的地についたらどうするの? 向こうが手を出してくるのを待つ?」
「それも悪くはないが、その場合は淳くんが囮だぞ。まぁ紅宮さんでも構わないけど」
「いやぁ……僕は流石にもう勘弁かな。それしか方法がないなら仕方がないとは思うけど……」
「私だって嫌だぞ。記憶失うんだろう?」
「向こうさんがいつ、記憶を奪っているかは分からないから、すぐに倒せば大丈夫かもしれないぞ? まぁ、賭けになってはしまうけど」
「そんな賭けはしたくないぞ……っていうかそういう風に冗談みたいな口調で言うってことは、他に方法があるんだろ?」
「それはもちろん」
頷くと、
「で、どんな方法?」
と淳くんが尋ねる。
別に隠すような理由はないので俺は素直に答える。
「力技で無理やりこじ開けるんだよ。今回の妖魔は自分の《妖魔の庭》を作ってそこに閉じこもってるタイプだからな。扉の場所さえ分かれば無理やりこじ開けて中に入ってしまえばなんとでも出来る」
「……思った以上に脳筋の解決法だったね……」
「ちまちま解析して静かに侵入してもいいんだけどな……そうするか? まぁその方がしばらく侵入がバレないし、淳くんと紅宮さんの安全も確保しやすいけど」
俺としてはダダッと入ってグサっとやった方が早くて楽だと思うんだが。
しかし二人は、
「ぜひ静かな方で頼みたいよ」
「私も同感だ」
そう言ってきたので、仕方なく俺は、
「わかったわかった。そうするって。そうするからあんまりじっとりとした目で睨むなって……」
そう答えるしかなかったのだった。
*****
「で、本当に場所はここ?」
ついたのは街の郊外にある空き地だった。
周囲にはいくつか何かの工場のような建物が見えるが、稼働している雰囲気はない。
人気が少なく、俺たちとしては堂々と色々出来るから好都合だが。
そんな場所で尋ねたのは淳くんだ。
車から三人ともすでに降りて、空き地の真ん中にいる。
「あぁ、間違いない。ほら、小瓶から出てる糸がここで途切れてるだろ」
「確かに……」
「この先に扉があって、その先の《妖魔の庭》に流れて行ってるわけだ。真気が扉を開かずに通ってるのは、この《妖蟲》が性質変換してるからだな」
「性質変換ってなんだ?」
これは紅宮さんの質問だ。
「分かりやすく言えば、これは通してもいいものですよ、とマークをつけているって感じですね」
「それのマークとやらは私たちにもつけられないのか?」
「肉体を捨てれば可能ですが……やります?」
「……悪かった。やめておこう」
実のところ方法は他にもあるが、ややこしいので今は黙っておく。
それよりも今は……。
「じゃあ、さっさと扉を開けてしまいますね。無理やり……じゃなかった。解析して静かに……」
真気を感知されにくいものに変換し、扉の輪郭を探る。
さらに開き方、構成を調べていき……。
「……よし開いた」
その瞬間、何もなかったその場所に妙な形の扉が出現した。
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