第231話 共に
「まずは、さっきの《妖蟲》だな」
そう言って俺はビンをテーブルに置く。
淳くんと紅宮さんの視線が集まった。
「……そもそもこれ、どうして閉じ込めておけるんだい? 見ると妖気だけで構成された非物質の存在に見えるんだけど」
淳君がまずそう言った。
これに紅宮さんが感心したように、
「へぇ、気術士から見るとそう見えるのか。私には分かんねぇな……」
「霊能力者とは違って理論的な知識がありますから……それに見方も普通に目で見てるだけではないので。僕の家系の気術は見ることに重点を置いているのもあります」
「なるほどな……で、武尊。淳の質問についてだが、どういうことだ?」
紅宮さんが水を向けてきたので俺は答える。
「それはこのビン自体が特殊な作りだからですよ。俺の手製なんですが……貴重素材をいくつも使ってます。加えて、それこそよく《見》れば分かると思うんだが、色々と気術陣を描いて術具にしてるからな。分かるか?」
後の方は淳君に向けての説明だ。
言われて彼もビンを凝視する。
そして感心したように、
「……確かに複雑な……細かい陣が見えるよ。これほどのものを作るなんて……術具師に鳴った方がいいくらいなんじゃないかな」
「四大家では術具作りは馬鹿にされがちだからな……ま、それに趣味でやってるからいいのさ」
「へぇ。僕らみたいな在野の気術家だとそんなことないんだけどね」
「みたいだな……ともあれ、こいつを使って色々やる。ええと……まず見えるようにしてやった方が良いか。《見えぬ糸よ、顕れよ》」
呪文を唱えると、ビンの中の蟲から細い光のようなものが二本、出てくる。
「これは……真気の糸、かな? 一本は……武尊に繋がってるみたいだけど」
「これは俺が意図的に《妖蟲》に流してる方だな。かなり出力は絞ってるから大したものじゃないが。で、もう片方なんだが……」
「これ、家の外にまで伸びてるみたいだけど、どこに繋がってるの?」
「大体予想はつくだろ?」
「……今回の問題の妖魔に、か……。大丈夫なの? これバレない?」
「顕在化させてるのは俺から見える範囲だけだからな。ともあれ、これを使えば妖魔のところまで案内してくれるって訳だ。それこそ、途中でバレなければの話だが」
「なるほど……これから行くのかな?」
「そのつもりだ。ちょうどいい足もあるし」
俺が紅宮さんに視線を向けると、
「私は足か。まぁそれくらいしか出来ねぇし、ほとんど無理矢理ついてくんだから文句も言えないんだが……」
と言う。
「いえ、いいんですよ。あんまり強力ではない、しかし一般人より多めの真気を持ってる霊能力者、というのは向こうからしても狙い目でしょうし、おとりにもなります」
「そういう理由もあって許可したのか……意外にえげつないな……」
「じゃあ帰ります?」
「いや、行く。よしじゃあ早速……」
と言いかけたところで、淳くんが、
「僕もついてったらまずいかな?」
と言い出した。
俺は少し考えてから、
「……別に構わないが、危険だぞ? 守るつもりはあるが、絶対とは言えない」
正面から襲いかかってくるならなんとでもなるが、今回は向こうの領域に飛び込む感じになる。
それを考えるとな。
まぁ来てくれた方がそれこそ紅宮さんと同じでいいおとりにはなりそうだが。
一度捕まった奴だ、ということで向こうも侮ってくれそうでもある。
「それで構わないさ。気術士なんだから覚悟もある。それに自分があった被害なんだ。出来れば……解決の瞬間も見たい。可能なら自分でどうにかしたいところだけど、それは難しそうだから……」
「確かにな。今後の経験のためにもいいか……よし、じゃあ三人で向かおう」
そういうことになったのだった。
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