第229話 二人目の被害者

「君が土田淳つちだじゅん君か」


 俺がそう尋ねると、リビングのソファに座っている男子高校生が頷いた。


「そうだけど……紅宮さんが来るって聞いてたけど君は?」


 怪訝そうに尋ねる彼。

 紅宮さんの方を見ると、視線で謝ってきた。

 どうやら俺の存在を伝えるのを忘れていたらしい。

 まぁそういうこともあるか。

 俺は淳に言う。


「あぁ、すまない。俺は高森武尊。生徒会の平役員だ」


「生徒会の……なるほど。今回の問題解決のために派遣されてきたのか」


「そういうことだ。淳くんは一年生みたいだけど、生徒会について詳しいんだな?」


 俺は入るまでそこまでのことは知らなかった。

 まぁあんまり学校で気術士としての仕事とかするつもりがなかったから美智とかにもそんなに聞かなかったからだが。

 俺にとって、気術学院はこの年齢だから在籍しなければならない場所でしか本来ない。

 ただ、入学前に考えていたよりもずっと深く関わってしまっているが。

 これもまた、運命とかなのかな……まぁコネ作りという意味では悪くは無いか。

 会長も、前世では関わりの殆どなかった関西の気術士だしな。

 そんなことを考えている俺に、淳君は言う。


「うちの両親も気術士で、四季高校出身だからね。それなりに学校のことは聞いてるから。でも、せっかく尋ねてきて貰って申し訳ないけど、僕はほとんど話せることは無いよ? なんでだか分からないが、浚われたらしいその時のこと、覚えてないんだ……」


 がっかりした様子の淳くんだが、別に俺にはそれでも構わなかった。


「いや、それでもいいんだ。覚えてる限りのことを話してくれれば、それに……ちょっと失礼」


 そう言って淳くんに近づき、そして首筋を観察する。


「どうしたの?」


 首を傾げた淳君だったが、その瞬間、俺は彼の首に手を伸ばし、そして摘まんだ。


「よし、ゲット!」

 

「……ええと……?」


 不思議そうな顔をする淳くんに俺は、


「あ、ちょっとだけ待っててくれ……」


 そんなことを言いながら《虚空庫》から特製のビンを取り出し、そこにそれを投げ入れる。

 しばらくの間、それは逃げだそうと暴れるが、どうやっても出られないことを学ぶと、静かになった。

 それでも手足を動かしながらギチギチ言ってるし、中から真気がどこかに向かって伸びているが。

 俺がビンを見ていると、


「……それは一体……?」


 と淳君ものぞき込んでくる。

 彼は気術系の生徒なので色々言っても大丈夫だ。

 俺は彼に説明する。


「これは君に取り憑いていた、《妖蟲》だよ。もう一人の被害者のところにもいたんだけど、やっぱり君にも憑いてた……」


「えぇ、こんなものば僕に……? もしかして僕、今やばいことになってる?」


「そうだな。少しばかり真気が減ってるよ。このまま放置しておくと生命維持に危険が生じるから補充した方が良い」


「ほ、本当に……? うわっ。本当だ……」


「気づかなかったのか?」


「う、うん……でも、言われて気づいたよ。これは……でもすぐには補充は……」


 そう言って慌て始めたので、俺は彼の手を取って、


「あぁ、じゃあ俺が真気流すから、受け止めて」


「え? お、おぉ!? これは……すごいよ! ストップ! これ以上は破裂するって!」


 言われて流すのを止める。

 ……確かに少し量が多かったか?

 一般人は多めに流しても自然に抜けてく分が多いが、気術士だと無意識にでも貯め込んでしまうから同じ感覚でやると危険だったな。


「ごめんごめん。まぁ、でもこれで問題ないだろ?」


「それどころか今までの人生で一番真気に満ちあふれてるよ……器も少し広がっちゃったよ……」

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