第228話 虫

「そいつは……何だ!?」 

 

 紅宮さんが眉をしかめて尋ねる。

 気分が悪そうなのは、こいつが発してる独特の気配のせいだろうな。

 俺も正直気持ちがいいものではない。


「これは《妖蟲ようちゅう》と呼ばれる、妖魔の一種ですね。厳密に言うなら、妖魔が使う……今風に言うなら、小型のドローンみたいなものでしょうか」


「小型のドローン……ってことは、あれか。家に入る前に言ってた、マーキングとかって話は……」


「これの気配だったようです」


 すでに妖魔から離れた割には、近くの人間に少しばかり濃い妖気が感じられたりと、少し違和感があった。

 その原因がこれだ。

 《妖蟲》はこれ自体が小型の妖魔であるから、それは妖気も感じられるだろうというものだ。

 ただ、非常の存在自体が微弱というか、小さいものなので、その気になれば簡単に消滅させられる存在でもある。

 少し強めの真気を持ってる一般人であれば数日あれば消し飛ばせてしまうくらいだ。

 それでも数日は保つわけで……。


「なぁ、こいつがドローンだって言うなら、こいつを捕まえたこと、バレてるんじゃないのか……?」


「それについては心配ないです。これは真気をどこかに送っているだけの機能しかないみたいなので。今も俺が微弱な真気を食わせ続けてますから、気づかれていないですよ」


 気づいたならこれを消滅させるはずだ。

 遠隔で操作できるのだよな。

 ただし、その場合はどこから指示が来たのか、手繰ることが出来る。

 だからあえて指示を出さないと言うこともあり得るだろうが……そこまで用心深い奴ならこの程度の機能には絞らないだろうからな。

 問題は無い。


「機能って……本当に機械みたいだな」


 妖魔の技術とは言え、便利そうだと少し感心した様子でそう言う紅宮さんだった。


「最近だと機械にとりつかせて操ったりする場合もありますから、間違ってないかもしれませんね」


 妖魔も馬鹿では無いというか、人間の文化文明もその時代によって、うまく扱う。

 場合によっては人間に憧れすら持つ妖魔もいるくらいだ。

 それを考えると、共存することが出来そうな場合もありそうだなと思う。


「そんなことまで出来るのか……」


「まぁ、高位の妖魔ほど、こういったものを作るのは得意なものが増えていきます。ただこれを見るに……やっぱり今回のは中位程度の妖魔かな。場所はまだ分かりませんが、後で調べましょう。この《妖蟲》をうまく操ってやれば、本体のところまで連れてってくれるはずです」


 逆探知のようなことが出来るのだな。

 これはそれなりの技術がないと難しいが、俺はそういう小手先の業は前世から結構得意だ。

 普通の気術士は割とそういうのを苦手とする。

 力でごり押しするタイプが多いんだよな……。


「後で? 今やれば良いんじゃ無いのか? そいつを使って……」


「失敗したときのことがあるのと、もう一人被害者がいますからね。そちらにもおそらくこれは憑いているはずです。まずそちらをお外して、予備を確保してから、の方が効率的でしょう」


「なるほどな……じゃあ、次の被害者のところに行くか。今度は気術士なんだったな」


「ええ。ですからもしかしたら自分で気づいて外してしまってる可能性もありますけどね」


 そうだとしたら予備が得られないから使えるのは一匹だけになる。

 まぁ、それでも多分大丈夫だろうが……。


「外してないことを祈るか……」


 そして車が動き出す。

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