第226話 話を聞く

「……ええと、こんにちは……」


 自信なげな様子で入ってきたのは、一人の少女だった。

 間違いなく、うちの高校の生徒であることは、着ている制服で分かる。

 リボンの色から見るに、二年生のようだ。

 また、真気は一般人のレベルを出ていないようであるため、事前情報に間違いなく一般生徒であることが分かる。

 そしてその事前情報の通り、一般人としても少しばかり真気の量が少ない。

 いや、大幅に少なくなっていると言って良い。

 これは寿命が大分短くなっているのでは無いか?

 良くないな……。


「あぁ、何度も悪いな、理恵ちゃん」


 そう話しかけたのは紅宮さんだった。

 山崎理恵、というのがその女子生徒の名前だ。

 前に色々聞いたと言うことで、そこそこ気さくな態度だな。

 俺との初対面の時は割と気を張っているような感じがしたが……いや、気術士の危険性を知っているが故だったのだろうな。

 拳銃を腰にぶら下げてる高校生が尋ねてきたようなものだったのだから、そりゃあ警戒するだろう。

 対して、理恵さんの方は全くそんな危険性は無い。


「紅宮さん……あの、お話しできることは前に全部お話ししたと思うんですけど……」


 理恵さんは怪訝そうにそう言う。

 ただ、訪問そのものを嫌がっていると言うより、ただ不思議そうだ。

 まだ聞くことがあるんだろうか、という表情だな。

 これに紅宮さんは、


「それなんだが、私はあくまでも刑事だからさ。それ以外の視点で見れば何か違和感も見つかるんじゃ無いかと思ったんだ。で、ちょっと四季高校の生徒にも協力して貰って色々調べ直してるところなんだ。未だに何も事件の概要が掴めて無くて、情けないんだが……申し訳ないが、もう一度、話を聞かせてくれないか?」


 そう言った。

 うまい言い方だろうな。

 というか大分卑下してる言い方で、意外だ。

 もっと自信満々な感じで話すかと思っていたが……それも含めてテクニックか。

 この紅宮さんの言葉に、理恵さんは頷いて、


「私でお役に立てるなら……ですけど、どこから話せば……」


 そう言って悩む様子を見せた。

 だからここで俺が言う。


「出来れば最初からお願いします。俺はまだ聞いたことがないので……。あ、俺は高森武尊と言います。これでも生徒会の役員です……平役員なので、姫川会長にこき使われてるんですけど」


 これを聞いた理恵さんは少し笑って、


「あはは……姫川会長はなんだか苛烈そうですもんね……それにしても、そうですか。生徒会の……でしたら、信用できます」


 そう言った。

 これも少し意外に思った。

 生徒会はそんなに信用されているのか、と。

 あんな会長なのに。

 ただ、冗談はさておき、ここ一月ほど生徒会の仕事を見てきたが、仕事に対しては彼らは非常に勤勉なんだよな。

 生徒にも寄り添って活動している。

 姫川会長の力こそ全て、は良くも悪くもその力に伴う責任まで含めた考えだったらしい、というのを感じた。

 つまりは強い力を持つ者は、それに見合った責任も負う必要がある、と。

 だからこそ生徒会のメンバーは生徒達に奉仕すべきだと。

 そんな感じだった。

 だから、信用されるのも理解できる部分はある。


「では、よろしくお願いします」


 俺がそう言うと、理恵さんは頷いて、


「あれは六日ほど前のことだったんですけど……」


 と話し出した。

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