第221話 共食い
数百体の妖魔の群れ。
それはたとえ下級妖魔のそれだったとしても壮観で、かつ恐ろしいものだ。
俺がそれを見たのは何度かあるが、その中でもとりわけ酷かったのは俺が死ぬ原因になったあの日のことだろう。
温羅の話を聞くと、周囲の妖魔は別に温羅が集めたものではないと言っていたから、そういう視点であの当時のことを思い出すと、いくつかの群れが温羅の力を目当てに集まっていたという感じだったのだなと納得がいった。
確かに、あの時の妖魔達の動きはどこか通常と違っていたからな。
たとえば、あまり統制が取れていないとか。
群れとしてまとまった行動を取る集団もいれば、先ほどの群れと全く異なる行動を取る群れもいたり……とか。
強大な一匹が統制しているにしては、妙だったのだ。
しかし、それを俺たちは、まだ妖魔の首魁が現界しきれていないからだ、と解釈していた。
それもまた納得できる説明だったのだが、真実はそうではなかったと。
で、そう考えると、複数の異なる群れが、それぞれ自分の目的のために動いていたからああだった、という話になるのだ。
そんな群れの中に、下級妖魔だけで固まっていたものもあったが、それでも当時の俺にとっては恐ろしい集団だった。
重蔵達は余裕そうだったが、俺にはな……。
今なら、話は違うだろうが、あの当時の俺は目の前にいる紅宮さんよりは少なくとも強かった。
それに高校に通ってる一般の気術系生徒よりも。
それでもそうだったのだから……。
ただ、この話の詳細については紅宮さんには出来ないから、大雑把に言う。
「下級妖魔で構成された数百匹の群れは、たとえ並の気術士が数十人集まっても対処することは出来ません。完全に収め切るには、百人は必要になってくるでしょう」
「そんなに? だが気術士なら、下級妖魔は一人当たり十匹くらい倒せそうなもんだが」
紅宮さんが鋭いことを言う。
しかしこれはそういう話では無いのだ。
「十匹なら、いけるかもしれないですね。でも数百に群れた妖魔というのは、ちょっと違うんですよ」
「というと?」
首を傾げる紅宮さんに、俺は言う。
「たとえば、数十匹倒しきったとする、そうすると彼らは共食いを始めるんです」
これに紅宮さんは眉をしかめて尋ねる。
「何のために……」
妖魔とは言え、共食いは何か生理的な嫌悪を感じさせるものだ。
しかし、これは彼らにとって合理性のある行動なのである。
というのも……。
「もちろん、強くなるために。普通ならば同系統の妖魔同士ならあまりしない行動なんですが、群れになると、群れの維持を優先するためにそういうことをしだす、と言われています」
「……それで、どれくらい強くなるんだ?」
「数百の下級妖魔の群れだと……大体、百体の中級妖魔の群れになることが多いですね。当然ながら、どのくらいの階位にいる下級妖魔かによっても違うのですが、大雑把に見ると、です」
「中級妖魔に……確かにそうなると、難しいのか」
「はい。中級妖魔は通常の気術士が一人で倒せる程度の実力を持ちます。もちろん、こんな風に無理矢理力の底上げをして生まれた中級妖魔には負担がかかっていて、長時間戦えなくなっているというデメリットもあるのですが、それを考えても手強すぎる数です。並の気術士ではとてもとても……」
「話は分かった。さっきの映像に映ってた黒い穴、あそこにいるのがボス格の中級妖魔なら、そういった群れを作り、力を底上げして、さらに上の段階に至る可能性があるってことか……」
「そういうことです」
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