第220話 群れる

「……教える話は、今回の事件に関連する知識になるので限定的に思えるかもしれませんが、それでも結構な情報量になるかもしれないので、覚悟しておいてください」


 気術に関して全て伝えても構わないのだが、そうするともう修行コースになってしまうからな。

 さらに霊能力者にそれを教え、気術の基礎まで身につけたら、それはもう気術士だ。

 つまり、その場合はどこか気術士系の団体に所属して貰う必要がある。

 俺が教えてしまった場合は、四大家系か、婆娑羅にということになるだろうな。

 そういう意味での俺の自由がかなり認められているのは、意外に婆娑羅の方で、部下を何人か好きに引っ張ってきていいくらいのことは言われている。

 霊能力者は天然の気術士、というか気術という手法を知らないまっさらな状態の能力者であるから、ちゃんと鍛えれば普通に戦える気術士にまで出来る。

 霊能力者でしかないのに、魑魅魍魎程度でも戦えるというのなら、気術を身につければ結構なものになるはずだ。

 ただ、すでに刑事なのだから、さらに気術士もやれとは言いにくいしな。

 基本的な知識を教えるくらいで十分だろう。

 本人がさらに望むなら考えるが……どうかな。

 そう思って紅宮さんの返答を待っていると、彼女は言う。


「あぁ、別にそれでいいが……ちなみに限定的で無いとどうなるんだ?」


「それは勿論、俺の弟子になって修行ということになりますよ」


「……なるほど、それは中々難しいか。武尊は学生だしな……」


「学生じゃ無かったら弟子になっても良いんですか?」


 プライドが、とかそういうのがあるかもと思っていたが……。


「私はこの国の国民を危険から守るために警察官になった。警察学校にいる間に霊能力者としての力を見いだされて、《裏課》に所属することになったが、今でもそれは変わらない。だから、もし更にそのための力を得られる方法があるなら、誰の弟子になろうとも構わねぇよ」


 ……思ったより覚悟の決まってる人だった。

 まぁ、そういうことなら……。


「すぐに弟子に、とかは難しいかもしれませんが、ちょっと考えておきますね」


「おぉ、ありがたい……で、今回の事件についての知識なんだが……」


「ええ。大物はやばいって話でしたね。この場合の大物というのは、まぁ言っても中位妖魔程度だと思います」


「上中下の枠に収まらない、大物、じゃないのか?」


「そうですね。俺たち気術士が普段使う大物、という表現は、結構相対的なものなので……さっきのは、いわゆる親分格として振る舞える知能や能力がある妖魔、を指してそう言いました」


「親分格ってのは?」


「妖魔には大まかに二つに分けて、単独で動くタイプと、群れを作るタイプがいるんですが、後者の方に属する妖魔で、そのトップとして振る舞っている妖魔を親分とかボスとか言うんですよ。この地位や能力を持つ妖魔というのは、上中下の妖魔の格とは別に、危険度が跳ね上がります」


「なぜだ……って、それはなんとなく想像がつくな。昔から言うが、数は力だ」


「そういうことです。群れを作る妖魔は、何らかの方法で群れに属する妖魔の数を増加させることが出来ます。大雑把に、十体の下級妖魔が一体の中級妖魔程度の力を持つ、と言われていますが、それはつまり十体の下級妖魔が集まれば中級妖魔に匹敵する危険があるということに他なりません。百体いれば十匹ですし、千体いれば百匹です」


「考えるだに恐ろしいが、そんなに集まるもんなのか?」


「俺は数百体の下級妖魔が群れているのは見たことがありますよ……」

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