第219話 知識

「……大物か。それってどのくらいまずいんだ?」


 紅宮さんが尋ねる。

 ただ、俺はなんて答えたものか迷った。

 紅宮さんがどの程度、妖魔に詳しいのか分からなかったからだ。

 どうも《裏課》とはいえ、気術界側から情報が絞られているような印象があるからな。

 その理由は、分からないが……。

 役職が課長代理だからか?

 課長なら詳しいんだろうか。

 考えても分からないな……。

 だから俺は素直に尋ねることにした。


「その前に、妖魔関係について紅宮さんはどのくらい詳しいか教えて貰っても良いですか? そもそも《裏課》がしてきた仕事ってどのようなものなのかも出来れば……」


 それで対応できる相手やレベルが大まかに見えるはずだ。

 紅宮さんはなるほど、と頷いてから少し考え、言う。


「そうだな……妖魔に上中下の区別がある、というのは知ってるぞ。あとそういう枠に収まらない、本当の大物もいるとか言う話も。ただ、《裏課》として妖魔退治に関わるみたいなことはまずないな。下級妖魔くらいなら見たことはあるが、戦ったことは……。魑魅魍魎の類なら、なんとか出来るってくらいか」


 なるほど、概ね四季高校の一般的な気術系生徒レベルくらいか。

 市井の霊能力者にしてはかなり出来る方に入ってくるだろうな。

 霊能力自体がどんなものなのかも気になるが、今はそれは置いておいて、さらに尋ねる。


「それで、お仕事の方は……?」


「いわゆる《霊障》とか《心霊事件》とか呼ばれるものの調査・解決が多いな。そういうのについては気術士も止めに入らないから……妖魔が確認されると途端に取り上げられちまうが」


 《霊障》や《心霊事件》と呼ばれるものは、霊が引き起こしているものもあるが、下級妖魔よりもさらに小さい妖魔……魑魅魍魎の類が引き起こしているものもかなり多い。

 そのレベルならなんとか出来るだろう、という判断で放置しているのだろうな。

 実際、やり方を極端にミスらない限りは、一般人でもなんとか出来ることがあるのが魑魅魍魎の起こす事件だ。

 であれば、貴重な気術士が出張ることなく、警察に任せておけば良いと。

 ただし、下級でも妖魔が出てくれば話は別だ。

 一般人ではどれだけ鍛えていようとも相手にならない存在であるし、霊能力者でも十全にその力を自覚し使いこなせていないと逃げることすら難しくなってくる。

 それはさっさと取り上げるだろうな。

 でも説明くらいはしても良いような気がするが……この辺は、昔から気術界を担ってきている老人達が保守的すぎるのかもしれない。

 今の時代、さっきの防犯カメラみたいに妖魔や霊が簡単にデジタルな情報として捉えられ、世界中に拡散される可能性もあるのだ。

 隠しきれる範囲にも自ずと限界がある。 

 警察ともしっかりと話し合って、意思疎通しておく必要があるような……と、まぁそれは俺が考えることでも無いか。

 ともかく、俺は紅宮さんに言う。


「大体、どういう感じか分かりました。そういうことなら、俺の知っているある程度の情報をお教えします。ですけど、あまり人に言いふらしたりするのはやめてください。俺も上から責められるかもしれないので……」


「お、おう。いいのか? ありがたいが……」


「大丈夫ですよ。紅宮さんの口が軽くない限りは」


 そもそも俺のことを責められる《上》って実質的に美智か重蔵くらいしかいないしな。

 そして二人はまず俺のことを責めることは無い。

 本来なら景子や慎司も入るだろうが、あいつらとの付き合いはゼロだ。

 大体あの二人に何を言われようとも知ったことでは無い。

 そんなわけで、俺は紅宮さんに、気術関係の基本知識を伝える……。

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