第218話 痕跡

「……まずは、これだな。一週間前の、四季高校近くのコンビニの防犯カメラ映像だ。通りに面した方に向けられてたから偶然映ってる」


 そう言いながら、紅宮さんがパソコンを操作すると、そこに防犯カメラ映像が映し出された。

 問題の場面まで早送りして、止め、そこから通常の速度で再生される……。


 それは、一見すると奇妙な映像だった。

 コンビニの面している通り、その右端から一人の男子学生が歩いてくる。

 服装を見れば分かるが、四季高校の生徒であることは間違いない。

 また、画面越しでも実のところ、気術士かどうかは分かる。

 真気が宿っているというわけではなく、単純にこういった映像に真気は映るからだ。

 生放送だとこちらにまで真気が感じられることはあるが、あくまで録画だとそうなる。

 なぜ、動画に真気が映るのかについては理由はよく分からないが、心霊映像のようなものだろう。

 霊の類が映っていることも普通にあるからな。

 ちなみに、例の如く一般人には見ることは出来ない。

 画面に映っている男子学生の周囲には、吹き上がるような真気の輝きがある。

 まぁ、そうは言っても、四季高校の一般的な気術系生徒ほどの力に過ぎないが。

 そんな彼がゆっくりと帰宅する様子なのだが……画面の真ん中辺りまで辿り着くと、そこに驚くべきものが出現した。


「……これは……」


 俺が思わずそう言うと、紅宮さんが、


「あぁ、これな。なんなんだろうな? 黒い……穴? 空間の歪みみたいなものが見える……」


 そう言った。

 そう、男子学生が足を止めたところに、そういったものが見えるのだ。

 ただ紅宮さんにはそこまではっきりと見えているわけではなさそうだ。

 俺には黒い穴と言うよりも、はっきりと空間が裂けているのが見えていた。

 最も裂け目がはっきりしている部分は確かにほぼ円形ではある。

 それが紅宮さんには黒い穴に見えるのだろう。

 俺は、それについて言う。


「新人の手には負えないって言った意味が分かりましたよ……」


「そうなのか? なんかやべぇ感じだなっていうのはあったんだが、はっきりとしたことが言えたわけじゃねぇ」


「いえ、正しい判断だったと思います。これは《魔領》とか、《妖魔の庭》とか呼ばれる場所に通じる扉ですよ。最近だと《ゲート》とか呼ぶことも多いですが……」


「そいつは……なんなんだ?」


「名前の通りです。それなりの力を持つ妖魔が、自らの安全の為に次元の狭間に作る領域のこと。次元の狭間にあるものなので、普通は行くことが出来ません。ただ、あの《ゲート》を通ることでしか」


「それじゃあ……今回行方不明になってた二人は……」


「あの《ゲート》の向こう側の《妖魔の庭》に引きずり込まれた、ということでしょうね……あぁ、やっぱり」


 映像の続きを見ていると、空間の裂け目から急に巨大な腕が出てきて、男子学生の胴体を掴む。

 男子学生は慌てて気術を発動させるべく、真気を練り込むが、いささか判断が遅かったようだ。

 気術を発動させるまもなく、そのまま《ゲート》の中へと引きずり込まれていった。

 そして、《ゲート》はふっと、その場に存在してなかったかのように消滅する。

 それでも十数秒ほどは、俺の目にはそこに《ゲート》のあった痕跡が映っていたが、それすらも風に吹き飛ばされて消えていった。

 

「……生徒は消えちまったな」

 

 紅宮さんがそう呟く。

 あの腕も見えなかったのかもしれないな。

 認識阻害系がかかっていたかもしれない。

 俺には全く効かないが。


「ええ。《妖魔の庭》に引き込む妖魔の腕が見えました。そこそこ大物っぽいですね」

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