第216話 裏課と生徒会

「おぉ、これは《火鼠の皮衣》じゃないか……こっちは《雨乞いの杖》……《身隠しの能面》まで……」


 危険なものだらけ、と言うだけあって、そこら中に無造作に術具・呪具の類が置いてある。

 効果は強力なものからお呪いレベルまで様々だが、普通の人間がどうやったって集められるような数では無い。

 《裏課》とは割としっかりと気術士関係に踏み込んでいる組織なのだな、と改めて理解した。

 気術士と関わりのある公的組織、といってもほとんど何も知らないところから、ずっぽりと浸かっているところまで様々グラデーションがある。

 ここは後者により近いということだろう。


「……お前、高校生の割に詳しいな? 昏石はそこらにあるものがなんなのかよく分かっちゃいないぞ」


 女性が言う。

 確かにいずれも気術士とはいえ、高校生が手に入れられるような品では無いな。

 こういったものは回収され次第、大体が大人の気術士の手元に行くか、封印処理が施されるか、破壊されるかというものだからだ。

 俺の場合、前世で四大家にいたときに、宝物庫で見たものが少なくないし、古今東西の術具・呪具について解説された図鑑のようなものもあったしな。

 そういったものは一般の気術家にそうそうあるものではないので、そういうところから知識の差が出ているのだろう。

 とはいえ、あまり詳しくも語れないので、大雑把に俺は返答することにする。


「術具・呪具の類が好きなんですよ。それに、俺はこれでも四大家の分家出身ですから。小さい頃から自ずとそういうものには触れてきたので、普通の高校生気術士よりは知識がある方だと思いますよ」


 こんなところか。

 嘘は言っていないし、説得力もあるだろう。

 そう思っての言葉で、実際女性は目を見開いて、


「……お前、四大家の出身だったのか……なるほどな、一年でいきなり四季高校の生徒会に所属して、こうしてここに派遣されてくるだけの理由はあるって訳だな」


 と感心された。

 

「そんなに珍しいんですか?」


「珍しいとも。そもそも四季高校の生徒会は、数少ない、気術士で私たち《裏課》に協力してくれる団体の一つだからな。その上、皆、昔から腕がある……」


 ……そうか?

 会長を見る限りたいしたことは無いが……って、これは俺の感覚かもしれないな。

 咲耶や龍輝に尋ねても似たような回答が帰ってきそうだが、この辺りの感覚は俺たち三人ほぼ同じだから参考にならない。


「ですけど、それこそ四大家とかは……」


 協力してくれるんじゃないか、と思ったが、女性は首を横に振って、


「難しいな。いや、最低限の交流はあるんだが、何か事件の相談とかに行っても大した話はしてくれない。そうかと思えば、気づけば事件は解決してて、事後報告で最低限の説明をされるとか、そういう感じでな……」


 あぁ、なるほど。 

 たとえ気術士の存在を知り、気術界に関わっているとはいえ、《裏課》も警察という表の組織の一部に過ぎないから、可能な限り情報を流さないようにしているわけか。

 そもそも四大家が直接乗り出した方が速い、というのもあるだろう。

 変に《裏課》に出張られて死者が出てもまずい、とかそういう判断もあると思う。

 ただ《裏課》からしてみれば、蚊帳の外で全て終わらせられてしまうみたいな感覚に近いのだろう。

 しかし四季高校生徒会は……?

 いいのか、色々と協力してて。

 一応、四大家の下部組織にあたる高校の生徒会だぞ、と思うが……。

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