第215話 《裏課》

「……天下の警視庁で、そんなことしませんよ……」


 思わず俺がそう言うと、男性は、


「数年ほど前に気術士が暴れたことがありまして、警戒してもしすぎることはないと思い知らされたことが……」


 そう言った。

 まさかの経験談だったか。

 しかし……。


「四季高校の生徒がですか?」


「いえ、在野の気術士……というか邪術士だったとのことで」


「あぁ、なるほど。そんなことがあったなら、貴方の警戒も理解します。ただ、何度も言うようですが私はそういうことはしないので。邪術士とは違いますよ」


「そうなのですか? 実のところ、あまり詳しくなくて……」


 それで少し彼の知識が理解できる。

 気術士がいて、霊能力者と比べて特別な存在だと言うこと、気術界が色々と権力と関わりがあることなどは知っていても、その詳しい知識はないのだと。

 まぁ確かにその辺の霊能力者程度にそこまで語るべきではないのか。

 警察ならいいような気もするが……でも、婦警に若干横柄だった性格とか見ると、あまり多くを教えない方がいいんだろうな。

 ここまでの案内役くらいがちょうどいいわけか。


「おっと、着きましたね。ここが警視庁地下七階にある、裏課です。私は戻りますので……」


 エレベーターを降り、思いの外、複雑な廊下をしばらく進んで到着したその場所にある扉には、確かに《裏課》の文字があった。

 男性はそのままそそくさと戻っていく。

 長居はしたくない、と。

 まぁ気持ちはわかる。

 ここまで歩いてくる中でも思ったが、ここには結構問題のありそうな物品が色々ありそうだからな。

 術具関係の倉庫みたいになっていると見た。

 加えて、《裏課》の中からも先ほどの男性とは比ではない力を持つ者がいる。

 とは言っても、俺から見れば似たり寄ったりだが……。

 そんなことを考えつつ、俺は《裏課》の扉を叩く。


「すみませーん、約束していた四季高校生徒会の、高森ですが……」


 すると、ガチャリ、と扉が開き、そこから一人の女性が現れる。


「……あ? 生徒会だぁ? いつもの……昏石はどうした」


 だいぶ粗野な感じの口調のそのスーツ姿の女性は、切長の目を俺に向けながらそう尋ねてくる。

 なんだよ、ここにも伝わってないのかよ。

 というか昏石先輩その辺もっとちゃんとやれよ。

 と、つい思ってしまった。

 まぁ言ってもしょうがないことなので、俺はとりあえず置いておき、女性に言う。


「昏石先輩は他の仕事で手が離せなくて、最近生徒会に入った俺が色々と聞きに来ました。ダメでしたか?」


 すると女性はポリポリと頭を掻いてから、


「いや、ダメじゃないが……しかし最近入った、か。新人でなんとかなるんかねぇ……今回のは」


「というと?」


「あれだろ、四季高校生徒誘拐事件の話だろ? あれはうちでも調べてるんだが、かなりヤバい雰囲気がビンビンでな……とてもじゃないが、高校に入学したての奴がなんとかできることじゃあ……」


「あー……」


 まぁ、そこそこの妖魔が関わっていそうだしな。

 下級妖魔すら厳しい一般的な気術系生徒だと、確かに厳しいだろう。

 しかし俺なら問題ない。

 そしてだからこそ、昏石先輩は俺をここに派遣した。

 だがそんな事情はこの人には知ったことではないだろうしな。

 とりあえず、と俺は言う。


「気持ちは分かります。でもとりあえず話を聞かせてください。どうにもならなそうなら、それこそ昏石先輩に連絡しますから」


「……そうか。まぁそれなら問題ないか。よし、入れ。あぁ、中に入っても不用意にものに手を触れるなよ? 色々危険なもんだらけなんだ……」


 そして、俺は女性について中に入る。

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