第213話 引き受ける
「……調査ですか。かなり面倒くさそうですね」
どうせならどこそこに妖魔がいるから倒してこい、の方が楽だ。
婆娑羅では大抵はそのスタイルだからな。
でもまぁ……調査から入ることもあるから、そういう意味でのノウハウはある。
ただ、今回は学生として、だからちょっと手間がかかりそうな気もする。
そんなことを考える俺に、昏石先輩は言う。
「そう言うなよ。というか、その面倒さがあるから中々手が出しにくくてな。知っての通り、生徒会は人手不足だ。すぐに片付けられるものをまず片付けてるから、時間かかるものは後回しになってしまっている」
生徒会の人員は本当に少ない。
俺たち三人に、生徒会三役、それに会計と事務が一人ずつだ。
これで校内の気術士関係の揉め事や、生徒に関わる事件などの解決をしているというのだから、相当な激務だ。
そういうのをこなしているから、会長なんかは特に実力主義に傾倒していったのかもな。
生徒に十分な能力があれば、事件なんてそれぞれ自ら解決できるわけだし、生徒会が出張る必要もなくなるから……ブラック生徒会から解放されたかったのだと考えると、なんだか同情が湧いてくる。
「これも一週間前の事件というのは、そういうことですか?」
一週間前に認知してたが、解決乗り出したのは今日だ。
一週間何をしてたんだ、という話になるが、そういうことか、という意味での問いだ。
これに昏石先輩は言う。
「まぁ、それが全てじゃ無いけどな。説明したとおり、一週間前に行方不明になって、数日してから戻ってきたんだ。それまでは俺たちに関係ある話か、普通に警察がやることか何とも言えなかった」
気術士と、一般的な公権力とのせめぎ合いというのは、昔から悩みの種だ。
それがゆえに、四大家などは政治との関係も深く、お互いに情報交換や協力関係を築くのに余念が無く、定期的な親睦会やパーティーがあるというわけだな。
表向きの仕事がそれぞれの家にあるのも、そういう意味もある。
それでもなお、摩擦が起こってしまうもので、そういう時はじりじりとお互いに譲り合いながら解決するしかない。
今回の場合は、どちらの所掌かはっきりせずに手を出しにくかった期間だったというわけだ。
「なるほど、実際に戻ってきた二人の共通点が、真気持ちだったから、生徒会がと」
「そういうことだ。まぁ、既に警察も動いてるんだがな。ただ、警察にも気術士関係の部署がある。都道府県によって名前は異なるが……関東だと気術課とか裏課とかそんな名前のことが多いな」
「それは俺も知ってますよ。四大家とも関わりが深いですからね」
「ま、そりゃそうか。で、どうだ。頼めるか?」
「ええ、生徒会としての仕事ならば断りませんよ、俺は」
「他の二人は断ることもあるって?」
「あの二人は俺よりも気分屋ですからね……ま、それはいいでしょう。とりあえず、今回の被害者である二人の名前と住所を教えてくれませんか?」
「あぁ、構わないぞ」
「自分で言っておいてなんですが、個人情報とかそういうのいいんですか?」
「別に知り合いの名前や住所を教えるくらい俺の自由だ」
「なるほど、そう言う扱いですか」
「おっと、ついでに警察にも行っておいたらどうだ? それこそ警視庁の裏課が話を聞きたいって言ってたからな。代わりに今回の事件についての情報をある程度提供してくれるってよ」
「どんな情報を……」
「そりゃ、俺たちには掴めないものさ。具体的には防犯カメラの映像とか、通行人の証言とか」
「人海戦術系は確かに警察の方が得意でしょうね」
「代わりに気術関係のことは俺たちが教えるわけだ。うまく出来てる」
「じゃあ、まずは警察に行ってきます」
「おお、頼んだ」
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