第212話 身近な事件

「発端は一週間くらい前らしいんだがな……」


 昏石先輩のそんな言葉から始まったのは、かなりまずい事件の話だった。


 *****


 うちの学校は気術士が集まってる。

 それはよく知っているな。

 まぁ当たり前の話だが……それがゆえに、気術士関連の事件が起こりやすい。

 小さい頃は両親や親族から、よく言われただろう?

 真気をたくさん持っている子供は、妖魔にさらわれてしまうから危ないよ、と。

 これは世界中どんな土地でも言葉を変えて子供に教えられる、事実だ。

 妖魔は真気を持つ人間を食うことで強くなることが出来る。

 これは別に大人でも構わないんだが、弱い妖魔じゃあ、いっぱしの気術士を食らう事なんて、まず不可能だからな。

 じゃあどうするかって、一人はぐれた気術士の子供を狙う。

 合理的な判断だよな……事実、子供とは言っても、気術士の血を引いてる子供の持つ真気ってのは、質もいいし量も多い。

 一般人と比べて何百、何千倍はあると言われる。

 そういう事情があるから、気術士の大半は、子供の頃は過保護に育てられる。

 基本的な気術を身につけて、魑魅魍魎くらいなら自分でなんとか出来るようになると、そういう過保護さはなくなるけどな。

 で……なんでこんな説明をしてるかって?

 そりゃあ簡単だ。

 うちの高校に通ってる連中はまさに、気術士の子供だからだ。

 狙われることが多いって話だよ。

 まぁ、もちろん本当の子供……五歳六歳のガキと比べれば全然違う。

 だが、大人の、一人前の気術士と比べれば、やっぱり子供さ。

 大抵の生徒が、下級妖魔すらも倒せないんだからな……。

 俺たち生徒会のメンバーは中級妖魔くらいまでは相手に出来るが、倒すことが出来るのは会長くらいか。

 ま、中級妖魔なんて滅多に出ないから気にしても仕方ないんだが。

 で、そんな状況のうちの学校周りで起きた事件についてなんだが、生徒が二人ほど、行方不明になってる。

 大事件だって?

 いやまぁ、確かにそうなんだが……その二人が戻ってきてなかったら、な。

 実のところ、行方不明になった二人は既に戻ってきてるんだよ。

 元気に登校してるぞ。

 じゃあ問題ないって?

 いやそれがそうも言えなくてな……以前と比べると、二人とも真気の量が減っているんだよ。

 一人は気術系の生徒で、かなり几帳面な奴でな。

 自分の真気量を適切に把握してたからはっきり分かってるらしい。

 で、もう一人はこれが一般性となんだな。

 それでなんで浚われたかっていうと、これも簡単、霊能力者だからだ。

 この高校には気術士が沢山いる。

 その結果として、一般生徒が濃密な真気に当てられてしまって、霊能力に目覚めることも結構あるんだ。

 というか、狙っている節すらある。

 一般生徒のうち、半分くらいは気術士のことを知ってる、大企業の役員とか政府の上層部とか、そういうのの子供だったりするからな。

 自分の子供に霊能力を身につけさせ、何か利用する。

 気術士との関係強化に使っても良いしな。

 そういう目的が、実はある。

 気術士の学校なんて普通、建てようと思っても建てられないだろうが、それがこうして存在してるのは、その辺のことでかつて、それこそ政府とうまく交渉したかららしいぞ……って、今はそれはいいか。

 で、行方不明になってた生徒二人だが、姿を消して三日くらいで帰ってきたんだ。

 真気と霊能力の一部を失った状態でな。

 だが、これがどうしてなのかよく分からない。

 妖魔は自分の力を上げるために、真気持ちを食らうだろう。

 なのに、一部だけだなんて……不思議だ。

 まぁそういうことが出来る妖魔がいるってことかもしれないが……ここらでそういうことが起こったと言うことは、これから先も起こらないとは言えない。

 だから、調査を頼みたい、とそう言う話だ。

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