第211話 頼み

「……それで早速だが、頼みがある」


 生徒会室の中で、昏石先輩が真面目くさった顔でそう言った。

 今はここに生徒会長の姿はないが、咲耶と一緒に校内の問題を片付けるために出て行ったらしい。

 あんなことがあっただけに、だいぶ険悪になるかと思っていたが、あれから一月ほど経って、二人の中は比較的良好だ。

 まぁ、わかりやすい感じの仲の良さではないが……。


「頼みですか。別にもう俺も生徒会の平役員になったんですし、普通に指示出してくれればいいんじゃないですか?」


 それとあれから変わったことは、俺たち三人……俺、咲耶、それに龍輝は生徒会に所属することになったことだな。

 とはいえ、昏石先輩が提案したとおりの、平役員として、だ。

 生徒会は割と気術士系、一般生徒問わず、かなり憧れられているところがあるので、やっかみがあるかもしれないと思っていたが、昏石先輩が以前説明したように、平の役員は雑用という認識が強いようだ。

 大変な役目を背負わされたな、という視線が七割、そして三割くらいが雑用でもいいから自分も生徒会に入りたい、みたいな意見があったかなという感じだった。

 まぁ、それくらいなら別に許容範囲だろう。

 自分も入りたい、と言っている奴らだって、別に俺たちに粘着しているとかいうわけでもないからな。


 そんなことを考えていると、昏石先輩は言う。


「それはそうかもしれないが……今回のはただの雑用じゃないからな」


 考えてみると、生徒会関連の本当の雑用……つまりは事務的なことに関しては、普通に指示を出されていた。

 プリントをコピーして十部まとめろ、とか、書類をどこそこに提出してきてくれないか、とかそういうことだ。

 しかし今回は改まって頼まれている。

 それの意味することは……。


「気術士関係の仕事ということですか? わかりました。誰を殺してくればいいでしょうか」


「……だから生徒会は暗殺組織じゃないって言ってるだろうが!」


 珍しく大声で突っ込んでくる昏石先輩。

 生徒会室が防音で良かった。

 まぁ気術棟にある方の生徒会室だから、漏れても誰も気にしないだろうが。

 生徒会室は一般棟にも存在しているんだよな。

 ただそっちに大した人数は置かない。

 今日も副会長がいるだけだ。


「冗談ですよ。でも、妖魔退治なんじゃないですか? 妖魔を倒してくるのには違いがないと思うので……」


「……あぁ、お前は妖魔にも比較的同情的だよな」


 そうだった、という表情でそう言ってくる昏石先輩。

 なるほど、俺はそう認識されているのか、と思いながら、俺は少しばかりの齟齬を訂正する。


「同情というか、妖魔と霊獣の境界が人為的すぎて信じられなくなってるんですよね。だから、倒すかどうかは相対してから決めることにしています。明らかに害がある場合は一切の手心を加えずに倒すことに文句はないんですが」


「ふむ、合理的ではあるな。ただ一般的な関東の気術士の価値観からは離れているが……」


「関西では違うんですか?」


「あっちは呪術が盛んだから、妖魔との関わり方もこっちとはかなり違う。協力を求めることすらあるくらいだ。だからまぁ、生粋の関東の気術士の考えよりは、お前の考えの方が理解出来るよ」


 昏石先輩は日本各地を周り、各地の気術士の状況に詳しい人だ。

 だからこその感想なのだろう。


「なら良かったです……それで、ご依頼は?」


「あぁ、それなんだがな……」


 そして、昏石先輩は話し始めた。

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