第210話 構想
「手を入れるって……何をするつもりなんだ?」
四季高校にいる気術士たちの実力の底上げを図りたいのは理解できるが、具体的に何をするのかは想像が出来ない。
単純に修行する?
まぁそれが一番簡単で確実な方法なのだが、それをさせていて今の実力なんだろうしな、と思うと違うのかもしれない。
そんなことを考える俺に、美智は言う。
「例えば……授業などをもう少し実戦寄りにしていくというのがまず考えられますね」
「今はそうじゃないのか?」
「そうですね、基礎的な気術を教え、使わせる。というのが多くて……すでにできる生徒にはかなり退屈なものになっている授業も多いです」
「そんなに緩かったのか……」
「全てではないですけどね。それに基礎は基礎でしっかり学んでおくことは必要です。ある程度出来る生徒でも、意外に疎かになってる部分も見つかったりするので、全てがダメということもないのです」
「確かに、たまに基礎を振り返ってさらってみると、新しい発見があることはあるが………」
それは自分でやるべきことだな、と思う。
まぁそれを高校生の気術士全般に期待しても難しいということかな。
「他に考えているのは、外部組織との連携ですね。どこでもいいのですが……本当の実戦に生徒を派遣することが出来ればと」
「それはいいな。ただ危険じゃないのか? 大抵の生徒の実力だと、足手纏い間違いなしだぞ」
全く使えない、とまでは言わない。
それなりの気術を身につけているのだ。
出来ることはどこにでもある。
俺が前世、あれだけ才能がなくても出来ることはあったようにだ。
だが、前に出て戦おうとし始めると危険だ。
四季高校の生徒の大半は、下級妖魔を相手にすることすら厳しい。
それ以下の魑魅魍魎を払うのが精一杯と言っていいだろう。
それもまた重要な仕事ではあるが、花形とは言えないな。
「わかっております。ですから、派遣先は厳選しなければなりません。加えて、派遣する生徒の組み合わせなどもよくよく考えなければならないでしょうね」
「そこまで考えるつもりがあるならいいが……しかしそうなると、人手は足りるのか?」
学校で気術を教える役割の教員以外にも、そういった派遣組織としてのノウハウを持つ人間も必要になってくるだろう。
その辺の調整が出来る人材というのは中々貴重だからな。
そう簡単に揃えられるかは疑問だが……。
「その辺りについては問題ありません。私もここ数年準備してきたことなので」
「ここ数年? それって……」
「もちろん、お兄様や咲耶が入る今年に合わせて、のことですね。それでも入学した後、ある程度学校に慣れてからと思っていましたが……いきなり今回のような事態を引き起こされてしまいましたから。今、取り組むのが一番いいだろうと前倒しすることにしたのですよ」
「あー……俺たちのせいか。それは悪かったな……」
一応謝るが、よく考えるとなぜ俺が謝らなければならないのか謎だ。
そもそも咲耶が喧嘩を売ったのがよくないのでは……。
まぁでもその根本的な理由は俺に関することだから、俺がうまく立ち回れれば起こらなかったことで、責任の一端は俺にあると言えるかもしれない。
「お兄様が悪いわけではないのですけどね。それに、必ず何か事件をそのうち引き起こすだろうというのは予想していましたので」
「まるで問題児みたいに言うなよ」
「問題児では?」
「言うな、お前も……」
「冗談はともかくとして、高校生といえど、気術士ですからね。お兄様方三人の力をはっきりと見抜けずとも、何か感じて突っかかってしまう、というのは普通にあり得ることですから」
「そうか? ……まぁ実際、そうだったな」
「大き過ぎる何かを見て、その全体像は掴めずとも、そこに何かあるようだ、と気づくと無視出来なくなるのが人というものです」
「色々隠してるつもりなんだが」
「無理なことでしたね……ま、生徒たちにもいい経験になるでしょうし、悪いことではありませんよ」
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