第209話 理事長室

「……それで生徒会を手中に入れ、見事、四季高校の支配者になったと……流石です、お兄様」


 四季高校気術棟最上階にある、理事長室から窓の外を眺めながらそう言ったのは、俺の前世の妹である北御門美智だ。

 俺はそんな彼女に呆れながら、


「人聞きの悪いこと言うなよ……そもそも、俺は何もしてないぞ」


 そう返すが、美智は笑って言う。


「姫川さんに簡単に勝利した咲耶が崇拝するお兄様相手に今後、生徒会の面々が何か言えるとも思えないのですけどね」


「……咲耶にも困ったものだよ。あそこまでコテンパンにしなくても良かっただろうに」


「お兄様を卑下されたことがよほど許しがたかったのでしょうね。私にも気持ちは理解できます」


「だからって何もするなよ……と言うか、そもそも美智と姫川会長は入学式で正反対の主張をしてたけど、何であれ放置してたんだ?」


 今後は咲耶が色々言い聞かせるだろうから、もう実力主義がどうとか極端な話はしないとは思うが。

 美智はこれについて、


「さほどの理由もなかったのですけどね。所詮は高校生の言うことですし、まぁ、言っていることもそれほど間違っているわけでもないですし。高校卒業をした後に、実力がなくて死ぬ可能性を考えると、そう言う方針を選ぶならそれでも構わない、程度のことで」


「どうにかするまでもない話だった、と」


 まぁ、大きな害があるかと言われると大したこともないという判断だったのかな。

 基本的な方針としても強くなると言うのは全ての気術士にとって意味のあることだし。

 それに、と美智は言う。


「卒業した後にどこに就職するにしろ、そこで徹底的に扱かれるのが普通ですからね。例えば四大家のどこかに、となればその家に沿った教育がなされるでしょう。高校でのことなど、大した意味はありませんよ」


 確かにそれもそうか。

 前世において、北御門家でも、新しく入った気術士が先輩にひたすらに厳しい訓練を課されている姿は結構見た。

 東雲家だとトップが率先して相当にきつい修行をし続けているわけだしな。

 南雲や西園寺はどうなのか、わからないが似たようなものだろう。

 けれど、


「それもまた、放任が過ぎる気もするが……」


 もう少しくらい介入してもいいような、と思っての言葉だったが、美智は少し考えてから言った。


「気術士の人生は大抵、辛いものですからね。高校くらいまでは、皆、好きに生きられたらその方がいいじゃないですか。まぁ私たちのような生まれだとそうも言ってられなくなるのが普通ですが……それはお兄様も感じられたでしょう?」


「あぁ……高校入って驚いたよ。普通の気術家の子供って、あんなもんなんだなと……」


 みんな、平和ボケしているなと言ってもいいくらいの感じがした。

 気術士として大した力を持たないのは勿論だが、それは才能がないからとかではなく、今までの人生でそれほどの修行をしていなかったからだと言える。

 前世の俺ほどに才能がない状態でもない限り、それなりに修行すればこんなレベルが平均値になるはずがない。


「中学までは周囲の気術士の卵は北御門家の者ばかりだったでしょうし、数もそれほどではなかったでしょうからね。高校では地方からも人を受け入れているので……正直、四大家の教育は異常ですよ。私も、お兄様が亡くなった後、気づきましたが」


「もっと厳しくしなくていいのか?」


「大体が似たようなレベルだったので、改革がしにくかったというのがあります。どれだけ頑張っても姫川会長くらいが限界値で……ですけど、今年からは少し手を入れられそうですね?」

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