第208話 相談

「……弟子ですか。そんな風に見てるように見えるかな……?」


 言いながら、まぁ大体そんな感じで見ているのは事実だなと思う。

 幼稚園の頃からもう十年以上色々教えてきたのだからな。

 幼馴染としても、また師弟のような立場としても相当長い。

 二人は前世の俺と違って才能があるから、前世の俺ではまず身に付けられなかったような技法まで簡単に吸収していくので楽しかったというのもある。

 俺は自分が出来なかったことも、知識としてはしっかりと覚えていたからな。

 まぁそれは、いつの日にか自分自身が身につけるため、だったのだが、意外な方向で役に立っているなと今は思う。


「あくまで俺がそう感じるだけだが……その顔を見ると大外れってわけでもないらしい。しかし、お前がこの学校での実質的なランキング一位か……後日、会長に正式に決闘を挑めば形式的にもしっかり一位になれるが、なるつもりはあるのか?」


 昏石先輩がそう尋ねてきたが、俺は首を横に振った。


「いえ、俺も咲耶と同じ気持ちですよ。というか咲耶が目立ちたくないって言ってるのは、俺に気を遣ってのことですからね……彼女自身は、別に目立とうが目立たまいが、本当はどうでもいいでしょうし」


 と言うか、生まれが生まれなので必然的に目立ってしまうのだよな。

 気術士の世界において、咲耶の名前を知らない者は珍しいだろう。

 顔をはっきり知っているかとなると、また別だが、「四大家に北御門咲耶という、いずれ北御門家を継ぐことになるだろう子供がいる」という事実については、大抵の気術士は知っている

 

「そこまで憚る立場なのか、あの北御門が」


「憚っていると言うより、友情ですよ。俺たちは幼馴染なので」


「……そうか。まぁ、大体の事情は把握した。今後はいい付き合いをできたら良いもんだな。俺としても、生徒会としても」


「昏石先輩なら大丈夫そうです。ただ、副会長は……?」


 さっきから、色々と悩んだり、目を見開いたりと忙しく表情を変えている猪鹿月先輩だが、ほとんど何かを口にすることはなかった。

 彼女の中での常識が、何か崩れ落ちたのかもしれない、という気がする。

 生徒会三役の中で、一番秩序とか大事にしてそうな感じなのが彼女だったからな。

 会長はほぼ動物だし、負ければもう仕方がないか、と割り切れるところがある。 

 昏石先輩は思いの外、観察力があって、それで納得できる諦めの良さがある。

 だが猪鹿月先輩は……。

 そんな俺の視線に気付いたのか、昏石先輩が、


「まぁ……あいつには後で俺が言い聞かせておくよ。今回の結果を受け入れないということはまずないから、それについては安心していい。若干頭が硬いからフリーズしてしまってるだけだ」


「ならいいんですが……」


「まかせろ。そうそう、さっき北御門が生徒会に頼ることはあるけど、逆に頼ってもいいみたいなこと言ってたがあれは本気か?」


「ええ、それについては構いませんよ。目立ちたくないだけなので……。流石にどこそこに行ってあいつを殺してこい、みたいなのは勘弁願いますけど」


「生徒会は別に暗殺組織とかじゃないからそんな心配するなよ……ただ、ここは気術士の卵たちが集まる高校だ。色々と揉め事が起こる。その仲裁とか、事件とかの解決に俺たちが動くことは結構あってな。人手が足らないこともしょっちゅうだ」


「それを俺たちに手伝えと?」


「たまにでいい。平役員としてなら三役の権限で簡単に入れられるし、ほぼ雑用みたいな扱いをされてるからやっかまれることもないが、それでどうだ? 生徒会の権限使えると、色々と便利なことも多いんだが」


「そうですね、後で相談して決めてもいいですか?」


「それは勿論だ。わからないことがあったらなんでも聞いてくれ」

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