第207話 勘

「……そこの二人と戦わなければならないって……どういうこと……?」


 会長が尋ねたんで、咲耶は答える。

 どこか冗談じみた口調で。


「──上下を決めないとならないのでしょう? だったら、早い内につけてしまうべきです」


「だから、どういうことよ!」


「会長は、私たちがこの学校に入学した時点で、すでに四番目ということですよ」


「馬鹿なこと言わないで! 私は貴女には負けたかもしれないけど……っ!」


 続きを言おうとして、会長は言葉を飲み込んだ。

 多分、言いかけたのは、そんな弱そうな二人には負けない、とかそんな感じのことではないだろうか。

 しかし、咲耶から俺を馬鹿にするのはやめろと言われているのですんでのところで飲み込んだ、と。

 すでにしつけられている……。

 俺としては別にいいんだけどな。

 全然嘗められた感じで。

 その方が目立たないし。

 逆に会長が俺に妙にへりくだってきて、それが他の生徒に見られたらその方がやりにくいわ。

 だが、そんな俺の思いとは裏腹に、二人の会話は続いていく。


「会長、貴女は私になら簡単に勝てると踏んで、負けたわけですが……」


「だから何よ」


「あの二人は私より強いですよ?」


「えっ……」


「だから貴女は四番目です。私が三番目」


「それこそ……そんなわけ……貴女は私を簡単にあしらって……」


「これが本当なんですよね」


 まぁ、分かりやすい言い方ではある。

 あるが……ここで龍輝が突っ込みを入れた。


「ちょっと待て! 俺は咲耶より強くは無いぞ!」


 そりゃそうも言いたくなるよな。

 そんな龍輝に、


「あら。でも今は私が負け越してますよ?」


「あくまでも今は、だろ!? この間までは俺が負け越してたわ!」


「そうでしたっけ? でも今は、私の方が下です。すぐに取り戻しますけどね」


「そもそもお前は全力じゃ無いだろうが」


「それは龍輝もでしょう? 全てを出せないのはお互い様で、条件は同じでやってるのですからそこに手加減も何もないですよ」


「まぁそりゃそうなんだが……」


 そんな二人の会話を聞きながら、冷静な昏石先輩が、俺に尋ねる。


「あの二人の実力は同じくらいって事で良いのか?」


「……そうですね。気術士の常で、切り札鬼札奥の手というものはどちらもあるでしょうし、全てを出し切った戦いをしたらどうなるかは何ともいえませんけど、概ね今は実力が拮抗してると言って良いでしょうね」


 本来なら北御門の直系である咲耶の方が強くなりそうなものだが、意外に龍輝は食らいついてきてるというか、ほとんど実力が変わらない。

 龍輝の方がよく考えて冷静な分、咲耶の猪突猛進な部分を引っかけやすいからか有利なことが多いまであるな。

 単純な出力や規模感は咲耶の方が上なのだが……まぁ良いライバルである。

 やっぱり同格の研鑽する相手がいると、実力は伸ばしやすいからな。

 俺がただ教えるだけでは、こうはいかなかっただろう。

 そんなことを考えつつ言った俺に、昏石先輩は、ふむ、と頷いてから、


「で、お前は? 武尊後輩」


「武尊でいいですよ……うーん、俺は……ご想像にお任せします。まぁそうはいっても、二人は北御門本家と、上位の分家ですから大体想像がつくと思いますけどね」


 当然ながら、ミスリード……のつもりだったが、昏石先輩は、


「なるほど、お前が一番強いのか。これは意外だ……」


 と言ってくる。


「どうしてそうなるんですか? 俺の真気を感じてくださいよ。大したことないでしょう」


「確かに見かけ上はな……だがそんなものは当てにならないと、北御門と龍輝が示したろう。お前がそうでないとは言えない」


「……そうですか。他には?」


 それだけならただの当てずっぽうだな、という思いで言うが、先輩は、


「後は、これはただの勘だが……お前、あの二人を弟子かなんかみたいに見てるだろ。そういうの、見てると分かるぞ」


 そう言ってきた。

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