第206話 決着

「……さて、ここから逆転することは出来ますか、会長」


 咲耶が鉄扇を会長の顎に突きつけたまま、そう尋ねる。

 膝を突いた会長は汗だくであり、真気もほぼ全て放出されてしまっている。

 気導具も存在を維持し切れなくなり、既に霧散していた。

 ここから逆転する手法などどう見ても存在しないように思えるが、咲耶があえてそう尋ねたのは、会長の口から直接、聞きたいことがあるからだろう。

 

「……本当に、貴女は、何なのよ……」


 息も絶え絶えの様子でそう言ってくる会長に、咲耶は、


「それについてはさっき答えましたよ。それよりも、会長。ほら、私に言うことがあるのではないですか?」


 若干嗜虐的な微笑みを浮かべる咲耶が恐ろしいが、別に聞いていることは理不尽なことでもない。

 この《決闘》が命の奪い合いではない以上、その勝敗は本人が負けを認めるか、審判がそれを宣言することでしか決まらないだろう。

 そして審判である副会長はまだ何も宣言していない。

 といっても、これは別に会長のことを庇って、というより、単純にまだやるのかどうか分からないからだろうな。 

 気術士が本当に一切の打つ手を失ったかどうかは、意外にわかりにくいものだ。

 もしかしたらこれでもまだ、会長は戦いを続けられる可能性もゼロでは無い。

 真気がほぼ空っぽになっても、最後の手段として自らの生命力を変換して気術を使うというやり方もあるにはあるしな。

 万策尽きた、とは言い切れないのだ。

 ただ、いかにプライドのかかった戦いであるとはいえ、学生同士の決闘ごときに命までかけることはしないだろう。

 

 一体、どんなことを考えたのか。

 それは分からないが、咲耶をしばらく見つめていた会長は、ぎりぎりと握っていた拳からふっと力を抜いて首を横に振り……。


「……そうね。流石に、もう出来ることは無いわ。私の負けよ……北御門咲耶……」


「あら、私に服従するのでは?」


 意地悪げにそう言った咲耶に、会長は何ともいえない表情をしてから、


「……北御門咲耶様」 


 そう言った。

 そんな会長に咲耶は笑い、


「冗談ですよ、会長。ただ、フルネームはやめてほしいので……咲耶とお呼びください。敬語とかもいらないですからね」


 普通の口調でそう言ったので、会長は少し驚き、


「……私を従属させたかったのでは無いの?」


 と尋ねる。

 これに咲耶は、


「まぁ……それは間違いでは無いですが……別に靴を嘗めて欲しいとか通りがかったら深く頭を下げて欲しいとかそういうつもりはなかったですよ?」


「じゃあ、どういうつもりで……」


「一つは、武尊さまを馬鹿にしたからですね。あの方は、私の大切な人です。そのようなことは、もうなさいませんよう」


「……それについては悪かったわ。売り言葉に買い言葉というか……彼自身に思うところは特になかったのよ……ごめんなさい」


「では、許しましょう。武尊さまにも後で謝ってください」


「……分かったわ。で、他には?」


「単純にこの高校で揉め事をあまり起こしたくなかったもので、先んじて生徒会の皆様と仲良く・・・出来たらな、と」


「……仲良く、の意味がどうも私と貴女とでは大きく異なるようなのだけど」


「そうですか? お互いに頼り頼られる関係は、仲が良いと言いません?」


「頼り頼られるって……私たちが使われるだけになるんじゃ……」


「もしも私たちが生徒会の皆さんを頼ることがあり、快く話を聞いていただけるのであれば、その逆も受け入れますよ? 一方的に何かを要求するつもりはありません」


「……それならいいけど……」


「あと、極端な実力主義、みたいなのは少し控えていただければと」


「……貴女は北御門美智の、孫ですものね」」


「それもありますけど、実力が全てと言ってしまうと、会長はそこにいる二人とも戦う羽目になりますから」


「え?」

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