第205話 昏石先輩
「地方ですか。昏石先輩はどこのご出身ですか?」
俺が尋ねると、昏石先輩は答える。
「俺か? 俺は……どこだろうな?」
「言いたくないなら無理にとは……」
気術士の能力は出身地からも探れる場合がある。
そういう時には、自分の出自を隠したいということもあるため、そんな言い方になった。
けれど昏石先輩は首を横に振って、
「いや、そういうことじゃなくてな。本当になんとも言い難いんだよ。結構全国を転々としていてさ。生まれは静岡なんだが、その後、福岡に行って……あぁ、沖縄にも住んでたことあるぞ。北海道も行ったし……」
そう言った。
なるほど、出身地と言われても絞れないのか……。
「でも、それだけ色々な土地を回っているから、地方の気術士事情についても詳しいんですね」
「そういうことだな。ちなみに、ここに来る前は関西にいたぞ。その関係で会長とも副会長とも高校に入る前からの付き合いだ」
「あぁ……それで三人には、なんというか気の置けないような雰囲気が」
「それはお前たち三人もみたいだがな。それにしても……本当に強いんだな、北御門は。会長があんなにボロボロになってるところ、本当に初めて見るぞ」
見れば、会長は咲耶に追い詰められていた。
そこら中に出現しては消え、また動き回る小さな竜巻に対応すべく、会長も縦横無尽にステージを駆け回っていたのだが、それでも僅かな回避ミスによって切り傷を少しずつ刻まれていったようだ。
それが結果的に体力も奪い、今では最初の頃に見せた速度がなく、精彩を欠いている。
これはもう勝負あったかな……。
「会長の場合、真気の消費管理があんまり上手くないようですからね。持久戦に近くなってしまった時点で、咲耶相手では厳しいでしょう」
「ほう、北御門は真気が多いのか? 見た感じ、ほとんど真気を感じないのだが……いや、そもそも聞いていいのかどうか分からないが……」
「昏石先輩なら構いませんよ。言いふらしたりもしないでしょう」
「しないしない。というか、そもそも四大家に喧嘩を売るような真似をする馬鹿がいるはずが……お、いたか」
生徒会長の方を見つめながら言う。
「それに少し乗っかっている様なところが昏石先輩にもありますが」
「こればっかりはな。生徒会に所属してしまった宿命というか、腐れ縁というか。多めに見てほしいところだ」
「分かりました。それで咲耶の真気量ですが、会長五人分くらいはありますかね」
「えぇ……なんだそれ、化け物か。会長も結構なもの……というか、この高校では一番真気量が多いんだぞ」
「それは分かるんですけどね。決して弱いわけでもないですし。でも、俺たちが入ってきてしまったので、今年からは高校で四番目になります」
「……お前たち二人も会長より真気が多いわけか。やっぱりランキング一位の座は北御門が獲るのか……?」
「そのつもりはないって、本人も話していたでしょう。俺たちは目立ちたくないんですよ」
そう言うと、昏石先輩は唖然とした表情で、
「……これだけやってか? 何かの冗談か?」
と言ってくる。
これには確かに反論しようがないのだが、俺は言う。
「昏石先輩も言ってたじゃないですか。宿命とか腐れ縁とかの範疇ですよ」
「お前もか……まぁ友達ってそんなもんだよな……」
そんなことを話していると、
「お、試合終了みたいだぞ」
と、観戦の方にいつからか集中していた龍輝が言う。
見れば、咲耶の鉄扇が膝をつく会長の顎にぴしり、と据えられていた。
まるで忠誠を誓えと命令する女王のようだな……。
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