第203話 会長の気持ち
──この
それが、四季高校生徒会長姫川葵の、紛れもない心からの感情だった。
目の前で葵の攻撃を涼しい顔で避け続ける新入生……北御門咲耶。
四大家の令嬢。
曰く、深窓の令嬢であり、不世出の天才であるとも言われているが、そんな異名は大きな家に生まれ、外にあまり出ることのない者としては珍しくもないものである。
そのため、葵は彼女に対するその異名を本気にしたことはなかった。
確かに、理事長である北御門美智の孫であるから、それなりの才能はあって当然だろう。
北御門美智こそ、この世界において正しく化け物と言われるような存在の一人なのだから。
四大家という、気術士の世界でも名の知られた集団の中、そのドロドロとした世界を生き抜いて、頂点に長く立ち続けると言うのはそういう意味なのだと、葵は両親や呪術師協会の人々から言われてきた。
例えば、呪術師協会の上にいる人間は、人間とも呼べないような化け物ばかりだ。
だが、それが子供に、そして孫に遺伝するとは限らない。
自らの目で確かめるべく、クラスを訪ねて話しても、特にその非凡さは感じられなかったように思う。
けれど実際はどうだ。
葵の持つ切り札の一つ、その中でも直接的な威力ではこれ以上ないとも言える気導具による攻撃を、ひらりひらりと、まるで紙か蝶かのような動きで避けている。
回避に特化した気術士なのか……と思ったが、
──しまった、近づきすぎたか!?
と感じるほどの近距離まで踏み込むと、何かで槍が思い切り弾かれる感触がする。
慌てて後退し、仕切り直すと、
「……鉄扇!? そんなもので……」
彼女の手には鉄の扇が握られていた。
それをしゃらりと開き、目だけ細めて微笑む彼女は言う。
「あら?
そう言って軽く鉄扇を振ると、葵に向かって何か恐ろしい気配がして、慌てて横に飛び退く。
「避けられてしまいましたね」
どういう意味か……と聞く前に、今まで自分がいた場所を見て葵は驚く。
見れば、そこには大きな鉤爪によって引き裂かれたかのような傷が、ステージ上に刻まれていたからだ。
不可視の斬撃?
いったいどういう……?
そもそも、このステージは定期的に決闘の舞台として使われているもののため、その頑丈さは折り紙付きなのだ。
ある程度までの威力の気術くらいではそうそう傷つくことはない。
それなのに、である。
「……どうやって」
だからつい、口からそう溢れるが、咲耶は不敵に笑って、
「さて? そういったことは試合中に聞くべきことではないでしょうが……いえ、すでに鉄扇については解説してしまいましたけどね」
「その……術具の力、ということ……?」
「そうですね。この鉄扇は、風を操ります。このように」
そう言って軽く振るうと、周囲に小さな竜巻のようなものがいくつも出現した。
見た目は美しいが……。
「あまり軽々しく触れないことをお勧めしますよ。それだけで、人間くらいなら簡単にミンチにできてしまいますので」
「……貴女、何者なの……!?」
「ふふ、ご存知でしょう。私は北御門咲耶。四大家本家の直系。そして……っと、これは内緒なので言えませんが、こんなところで負けるような女ではないのですよ」
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