第201話 会長の力
「……それでは、始めッ!!」
と、副会長の声が響く。
決闘開始の合図は必要だからな。
とはいえ、その声が聞こえていないわけもないのに、二人とも動き出さなかった。
「……咲耶さんはどうして動き出さないのかしら?」
と、副会長が呟いたので、龍輝が答える。
「様子見したいんじゃないですかね」
一撃で潰そうと思えば潰せはするが、その前に会長の戦い方を見ておきたいのだろう。
俺と龍輝にしても、会長が一体どのような戦い方をするのかは知りたいしな。
いざというときのために、みたいな理由では無くて、単純に好奇心で、であるが。
俺も龍輝も、会長に負けるとは思えないからだ。
主に、真気の量と圧力で、それくらいのことは察しがつく。
この高校に入ってよく分かったが、高校生くらいだと気術士の大半は真気の隠匿など出来ないようだからな。
というか、そもそも親や親族、家門が教えないのだろう。
意味が無いから、と。
子供の頃は戦う力が無いから妖魔から隠れるという意味であった方がいい技能だが、そもそも隠匿を使えるほどになってくると妖魔から隠れる必要もないくらいの腕前になっているというのがある。
大人になれば普通に妖魔に寄ってきてもらった方が、気術士としても都合が良いしな。
とはいえ、あまり強大な妖魔に来て貰っても困るところだが、大抵の気術士はそんなものに遭遇することはまず、あり得ない。
強大な妖魔はそもそも、ちまちまとした弱い気術士にあえて襲いかかるということもない。
そういう実際的な理由があって、隠匿系の気術はさほど人気が無い。
邪術士退治には役立つが、そういうのは一般的な気術士の仕事でも無く、それ専門の人間が当たる傾向がある。
そんなことを考えていると、龍輝の言葉に副会長が、
「咲耶さんが様子見を……でも、今が会長に襲いかかるチャンスだけど」
そう言った。
これに龍輝は、
「逆に会長はなぜ動かないんです?」
と訪ねる。
副会長は、
「……初手は譲ってやろうとか、そんなこと考えているんだと思うわ。馬鹿な娘よね……」
と呆れたように言う。
俺は気になって、
「副会長は大分、会長に思うところあるみたいですが、付き合いは長いんですか?」
そう訪ねた。
すると副会長は言う。
「そうね。関西にいる頃からの付き合いよ」
ということは、この人も呪術師協会系の人なのかな。
「それにしては言葉が訛ってないですけど」
「それは会長もでしょう? と言っても、私はそもそも小さい頃はこっちに済んでいたからね。人材交流で呪術師協会に父が行ってたのよ。それについていって……で、思ったより長くなってね。高校に入る段になって、私と母だけ戻ってきたの。父は単身赴任ね」
それは世知辛い話だ……主にお父上が。
妻と娘に置いてかれる単身赴任父は切ない。
しかし……。
「そういうことなら、今の所属は……」
「私はそもそもフリーね。卒業したらこっちでどこか探す感じになるかしら。そのために生徒会にいるの……あら、しびれを切らしたのはうちの会長の方みたいね……こらえ性が無いのよ、あの娘は……」
ステージの方に視線を移すと、会長の周囲に真気が満ちていく。
いや、会長の体内でもうごめいているな。
基本的には身体強化系の気術のようだが……周りの真気は……お?
あれは……。
「おい、武尊。あれって気導具じゃね?」
龍輝が言う。
ある程度以上の気術士、その力の集合として完成する武具、気導具が、会長の周囲に出現していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます