第200話 貸し
「……一応聞いておきたいんですが、なぜ他言無用に?」
これは龍輝が言った言葉だ。
俺や咲耶に対してはあまり見せることの無い、無害そうな表情でである。
龍輝はこれで、俺たち三人の中で一番の役者なのかもしれない。
「……それは咲耶さんの為です。入学早々、生徒会長と争いになったという噂が広がるのは困るでしょう?」
これについてはどうやら、まともな理由ではあるようだ。
ただそれだけでもないだろう。
生徒会三役の様子を見る限り、姫川会長が咲耶に負けるとは毛ほども思っていないように感じるが、それでも副会長としては万が一も考えざるを得ないところがあるように思える。
だからその点を遠回しに突くように、龍輝が言う。
「咲耶は別に困らないと思いますが……なぁ、咲耶?」
「ええ、私としては別に。この学校には仲良しこよしで過ごすためにきたわけでもありませんから……。私が生徒会長と対立したことを理由に、喧嘩を売ってくるような生徒がいたら、その場合適切に対処するだけですし」
そんなことを言う咲耶に、副会長は少しばかり頭が痛そうな様子で言う。
「……どうしてこの学校に入る実力者というのはこうも好戦的なのばかりなのかしら……。正直に言うわ。貴女が困らないにしても、私たちが困るのよ」
これはちゃんと本音っぽいな。
そんな副会長に、咲耶がさらに言う。
「会長が負けたと喧伝されたら困るからですか?」
「負けるとは思ってないけど、万が一それがあればね……ただ、さっき貴女が言った生徒会長になるつもりはない、と言う話を聞く限り、貴女にも悪い話では無いんじゃ無いの?」
「どういう意味でしょうか?」
「……目立ちたくないんじゃ無いかってこと。すでに北御門のご令嬢と言うことで目立ってはいるけど、学校での問題児的な悪目立ちは避けたいんじゃない? 今日、こういう決闘があったってことを内緒にしておくのはそういう意味で悪くない提案だと思うわ」
「他には?」
「これが私としては一番なのだけど、学校で生徒同士であんまり揉め事を発生させたくないのよ……はっきり言って、今日の決闘自体、私は反対だわ。いまからでもやめてほしいくらい」
しかし、そう言った副会長に、姫川会長は、
「やめないわ!」
と叫ぶ。
「……この馬鹿が……。というわけで私にも止めようが無くてね。でも今日のことは今日だけで収めたいの。それだけ」
うーん……。
会長と副会長は気心が知れてはいそうだが、それだけに忌々しく思っているところも多いということかな。
というか会長の方が猪突猛進型過ぎるだけでは、これは……。
そんな気がした。
咲耶も大体のところは察しただろう。
その上で、言う。
「仕方ありませんね。それで手を打ってあげましょう。ですが、忘れないでください」
「何をかしら?」
「私は生徒会にも貸しが一つ出来ると言うことをです」
「……抜け目がないのね。分かったわ。でも会長に勝つつもりなら、それで生徒会も思いのままよ?」
「副会長が従ってくれるとは限らないじゃ無いですか」
「……まぁ、いいでしょう。じゃあそろそろ始める感じでいい? 私たちは結界の外で観戦するけど。そっちの二人もこっちに来て」
そう言われて、俺と龍輝は移動する。
会長と咲耶はホール中心に設けられたステージに移動し、間合いをとって向かい合った。
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