第199話 条件

「……よく来たわね! 尻尾を巻いて逃げるかと思っていたわ!」


 会長が腕組みをしながらこちらを睥睨するように見つめてそう言った。

 偉そうだ……いや、生徒会長なんだから偉いんだろうけど。

 

「なぜ逃げる必要が?」


 咲耶がこてり、と首を傾げながら口元に指を添えつつそう言う。

 それに対して姫川会長は言う。


「それはもちろん、貴女はこれから私に負けるからよ! そして、生徒会に入るの……」


 おや、そんな条件があったかな?

 別になかったと思うが……。

 まぁでも強い者が正しいという思想なのだから、自分の方が強いと証明できれば言うことは聞いてもらうって話か。

 そもそも生徒会入れっていうのは言っていたしな。

 それにしても野生動物の価値観だが……なんだか姫川会長が獣に見えてきた……。

 ともあれ、条件部分は咲耶も気になったようで、


「負けたら生徒会に入るとか、そんな話はしてませんけど?」


 そう言った。

 これに会長は、


「貴女は自分より下の人間にはつかないと言ったでしょう。学ぶものがないからと」


「そうですね……あぁ、私より強い場合は下につくと解釈したと? まぁ間違ってはいませんが……」


「ならいいじゃない」


「うーん、まぁ……」


「何よ、不服なの?」


「いいえ、そうではなくて……そうなると、もし姫川会長が負けた場合、どうなるのかなと思いまして」


「……私は負けないわ」


「でも、そういう条件がつくのなら、その場合に私が得られるものも決めておかなければ不公平でしょう?」


「それは……まぁ。でも簡単じゃない? 貴女が生徒会長の座に……」


 と言いかけたところで、


「会長、それは流石に」


 と副会長の猪鹿月先輩が止める。

 どうも、彼女はだいぶ冷静なようだな。

 咲耶が煽ろうとしていたのに気づいて止めたようだ。


「ダメなの? じゃあ……どうしようかな……」


「いえ、さっきの条件でいいと思いますよ」


「さっきのって?」


「負けた者が、勝った者の下につく、ですよ」


「じゃあ生徒会長になる?」


「それは遠慮したいので……私はこの高校の生徒全員のために頑張るつもりはないです。ただ、生徒会長個人が、明確に私の下だと、そう認識してくだされば結構ですよ。当然ながら、その場合、何かあったら私の話は聞いてもらいますが」


 なるほど、これが咲耶の出したい条件か。

 それなら目立たずに、けれど誰よりもこの高校で上に立てると。

 ほぼ黒幕的な立ち位置だが……。

 北御門家的にもいいんだろうな。

 美智から何か言われているのかもしれない。

 会長は咲耶の言葉に、少し呆けた顔で、


「……それだけでいいの? 何か他には……?」


 と言ってくる

 大した条件ではないと感じたようだ。

 強ければいいと言っているわけだから、負ければ当然そうだという感覚なのかもしれない。

 ある意味潔いのだが、その思慮の浅さで大丈夫なのか?とも思ってしまうが……その辺は副会長の方が補っているのだろうな

 彼女の方は少しばかり苦い顔をしている。

 しかし、会長の無理な決闘から、咲耶が負ければ生徒会に入れ、とまで言っている手前、咲耶が出した比較的軽そうに見える条件に否とは言えないと言うのもわかっているらしい。

 仕方なさそうにため息をついている。

 咲耶はそんな副会長の様子に満足したように、会長に言った。


「ありません。私は欲しいものは大体、簡単に手に入れられる立場ですので」


「……北御門のご令嬢だものね」


「ええ、まぁ。で、それでいいでしょうか?」


「わかったわ。その条件で。そっちの二人は……?」


「この二人は私の友人で、観客ですよ。問題ないですよね?」


 これには副会長が、


「ええ、事前に確認していただいてますし、二人だけなら。ただ、今日のことはお互いに他言無用で」


 そう言ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る