第198話 気術棟ホールにて
気術棟ホールに入ると、その中心に人がいるのが見えた。
周囲は観客席があるが、そこには残念ながら誰もおらず、がらんとしている。
公式戦だとここが人でひしめき合うのだろうな。
で、非公式戦だと……場合によるのか。
別に観客を入れないことが条件ってわけでもないんだし。
あくまでも、ランキングの順位がかかっているか否かが、公式戦と非公式戦を分けているに過ぎない。
「……あそこにいるのは、昏石先輩と、姫川会長……あともう一人は誰だ?」
三人いて、うち二人は当然の如く見覚えがあるが、最後の一人、背の高いショートカットの女生徒は俺には見覚えがなかった。
おそらくは生徒会の人間なのだろうが……。
これに龍輝は、
「あぁ、あれは副会長の
「へぇ、ということはつまり、あそこにいる三人が生徒会の三役ってわけだ。詳しいな、龍輝」
「詳しいというか、俺のとこに勧誘に来たからなぁ、猪鹿月先輩」
「そうなのか?」
確かに龍輝の実力であれば、実力主義を掲げる生徒会長の下にある生徒会に勧誘するのは正しい選択に思える。
ただ、龍輝は言う。
「どうも、俺が北御門一門の上位の家だと知ってのことだったみたいだぜ。まぁ別に隠してないし、それくらい調べりゃすぐに分かるだろうが……いや、調べなくても知ってるか」
「じゃあ実力とかは関係ないのか」
「武尊から見てどうだよ? 今の俺、強そうに見えるか?」
尋ねてきた龍輝を観察する。
もちろんのこと、龍輝の正確な実力など、長い付き合いなのだからよく知っている。
しかし、龍輝が尋ねてきたのはそういうことではないだろう。
そうではなく、実力が外に漏れているか、の話だ。
一見して気術士が強いかどうかは、基本的に真気の量や圧力で見るのが一般的だ。
そこからすると、龍輝の真気は今、平凡な量と圧力に過ぎないように感じられる。
だが、それなり以上の実力を持つ者が見れば、それはただの見せかけに過ぎないことが理解できるだろう。
真気を体の奥深くに隠し、圧縮してすぐにその底が見られないようにしているのだ。
これは、俺が龍輝や咲耶に教えてきた隠匿術だな。
多くの気術士はあまりこういうことをやらない。
何せ、舐められやすいからだ。
はっきりと分かるように強さを示しておかないと、絡まれることも多い。
あの会長の思想はともかく、確かに気術士は実力主義、というのは一理あるのだ。
妖魔を倒せなければ、俺たちに存在意義はないから。
けれど、本当に恐ろしい気術士というのは、全くその強さを外に漏らさない。
下手をすれば一般人よりも弱く見える。
それなのに、相対して気付けば自分が膝を地面についている、そんなことが起こる。
これは強力な妖魔でも起こり得ることだな。
温羅にしたって、パッと見ではそんなに強そうには見えなかった。
ただどこか異様な、目の前に立っているとまずいような、妙な焦燥感があるだけだ。
だが実際は……というわけだ。
そういう事情の中、なぜ俺が龍輝と咲耶に隠匿を教えるかといえば、子供の頃は妖魔に真気が多い子供は襲われやすいから、というのがまず一つ。
そして、真気をそうやって絶えず圧縮したりしながら操っていると、徐々にその量や練度が上昇していくからだな。
常に修行してもらうため、ということだ。
その甲斐もあって二人の実力は今、かなり高いと思う。
それが、外側から見ても一般的な気術士にはさっぱり分からないだけで。
そこまで考えて、俺は言う。
「強そうには見えないな。ただ、お前の親父さんくらいから見れば、頑張って隠匿してる、というのがバレるくらいだ。まだまだだな」
「……まだ足りないか。ま、もう少し頑張ることにしよう……」
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