第197話 期日到来

「……どうせお前らのどっちかがそのうちなんかやらかすんだろうなって思ってたが、入学早々、しかも生徒会長とかよ……」


 呆れたような顔で俺と咲耶を見つめてそう言ったのは、幼馴染である龍輝だ。

 子供の頃はやんちゃさが目立っていた為、女の子からは比較的遠巻きにされがちだったが、今となってはしっかりとイケメンに育っており、なんというかワイルドな格好よさが感じられる見た目になっている。

 ただし、その内面は父親譲りなのかどちらかというと落ち着いていて、俺たち三人の中だともっとも常識的な行動をとる。

 そんな彼から見れば、俺たちが今回起こした揉め事は、何やってるんだお前ら、という感じなのだろう。

 実際、俺もちょっと思うからなぁ……。

 なんだかんだ、一番直情的な行動を取るのは、咲耶なのかもしれなかった。


「やらかしたのは姫川会長の方であって、私ではありませんよ?」


 しれっとした表情でそう答える咲耶だったが、長い付き合いである龍輝がその程度で誤魔化されるわけもなかった。


「どうせお前が煽ったんだろ? 目に浮かぶようだぜ……ああいう、強権的な性格してるタイプはお前からすりゃ転がしやすくてしょうがなかっただろうさ」


「……私は何もしていません」


「そういうことにしておいてやるよ……しかし、俺も一緒についていっていいのか?」


 龍輝がそう尋ねたのは、今日これから、気術棟ホールで咲耶と姫川会長の決闘が行われるからだ。

 期日が来て、そこに向かっているわけだな。

 当然の如く、生徒たちに特段アナウンスされるということもなかったので、無観客で行われるのだろう。

 伝えてくれたのは生徒会書記の昏石先輩という人だった。

 眼鏡をかけた短髪の物静かそうなこの人は二年生だが、一年生の頃から生徒会に所属しているのだという。

 姫川会長とも親交が深いようで、期日を伝えるついでになんだか謝っていた。

 曰く、うちの会長が迷惑をかけてすまない、と。

 ただ決闘の撤回をしろとも言い聞かせようがないから、よろしく頼むとも言っていたので、まぁ今回のことについて俺たち側についてくれるつもりはなさそうだな。

 中立程度か。

 それで、この先輩に友人も連れていっていいか、と咲耶が尋ねて、二、三人なら構わないということになった。

 君信はどうするか少し悩んだが、彼は今回のことについては無関係だし、連れてきて色々話すのも面倒だしな。

 いずれ紹介してくれと言われたのでそのつもりだが、今回のに連れてきて、とやるのもなんというか、イメージが悪そうというのもある。

 この娘、俺の幼馴染で北御門のご令嬢、そして生徒会長に喧嘩を売ったんだ!でもないだろうと。

 そんなことを考えていると、咲耶が龍輝に言う。


「許可は取りましたからね。それに、二人に見ておいてもらわないとちょっと手加減が効かなそうな気もするので……。まずそうな時は止めてください」


「お前……本気は出すなよ!? 死ぬぞ、あの会長……」


 半ば本気で龍輝がそう叫ぶ。

 実際、実力の程はある程度見て分かったが、咲耶の相手になるのかと言われると難しいだろうな。

 ただ、何かしら切り札を持っている可能性はある。

 というか、気術士たるもの、そういうものの一つや二つは必ず持っているものだ。

 それを学生の決闘程度で切るかはともかく、咲耶と言えども全くの油断は出来ないだろう。

 それだけに、何かの拍子に手が滑って全力を、なんてことになる可能性もあるわけで……。

 俺も龍輝に同意しつつ咲耶に視線を向けると、彼女はふっと笑い、


「……命は取りませんよ。流石に、ね」


 そう言ったのだった。

 本当かな……。

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