第196話 咲耶の思惑
「……決闘の日取りが決まったようですよ」
四季高校、一般棟屋上にて、咲耶がそう言った。
入学からしばらく経ち、新入生も学生生活に慣れてきたようで、今ではこの屋上にもちらほら、人が来るようになってきている。
もちろん、大抵が気術系生徒なのだが、たまに迷い込んだように一般生徒も来るので面白い。
彼らは一様に、こんなところがこの学校にあったなんて気づかなかった、みたいな顔をする。
ちなみに、何かの拍子に一度破れた軽い認識阻害の気術はその後、効きにくくなるようでそういった生徒はその後も普通に来る。
まぁ、別に屋上で気術に関する会話をことさらに誰かがしている、というわけではないので問題はない。
と言っても、今、俺と咲耶はまさにそのような話をしているのだが、会話が漏れないように密かに気術を使っているのでやはり大丈夫なのだった。
「やっとか。しかしあれだけ威勢よく決闘だとか言ってた割には、決まるのに少し時間がかかったもんだな?」
俺が疑問を口にすると、咲耶は言う。
「色々な方の思惑が作用した結果のようですよ」
「……なんだ、それは」
どことなく聞くべきでないような、面倒臭い政治的な雰囲気のする話だ。
が、聞かないわけにもいかないだろう。
間接的にとはいえ、俺も関わってしまっている話だ。
一応の責任がある。
「まず、この高校で行われる決闘には、公式戦と非公式戦があるそうです」
「初耳だな」
「詳しい話はこれから行われる予定のようですから」
「そうなのか。で、それが?」
「今回行われる決闘が、そのどちらなのかについては私も、そして姫川会長も特に言及しておりませんでした」
「確かに……そうだったな。そういう単語は言っていなかったような記憶がある」
というか俺は半ば他人事で聞いてたので適当にしか覚えていない。
あんまり重要な話とも思ってなかったしな。
決闘といっても、所詮は学生のお遊びに過ぎない。
命が関わっているわけでもなんでもない。
加えて、咲耶があの会長に負ける姿は……想像し難いからな。
気にするようなことでもなかった、と言うわけだ。
「そこを逆手に取られまして、今回の決闘は非公式戦の扱いになる、と言われてしまいました」
「それはまずいのか?」
「なんとも言い難いところですね。会長側としては助かるのでは?」
「そもそも違いはなんだよ」
「公式戦の場合、勝った方が下位である時は、負けた方の順位になり変わることが出来るそうなのです。しかし、非公式戦はそのようなことはありません。その代わりに、順位以外のものを賭けることも出来る、と」
「なるほど……じゃあ向こうは命拾いしたわけだ」
咲耶が勝って仕舞えば、会長は一位の座から引き摺り下ろされる。
それを避けたかったのだろう。
「必ずしもそうは言えませんよ」
「なぜ?」
「言ったじゃないですか。順位以外のものを賭けることもできるって」
「あぁ……何か賭けるつもりなのか? でも特にそれも言及してなかったろ?」
無理に賭けようと言ったところで断られたらなぁ……。
「そこはやりようでしょう。そもそも、今回の非公式戦にするという話も、おそらくはあの会長が望んだわけではないと思います。他の誰かが考えたことかと」
「そうなのか?」
言いながら、まぁそうかもな、と思う。
あの会長は負ける気ゼロだった。
であれば公式だろうが非公式だろうが構わないと考えるはずである。
しかし、万が一があると思った奴がいた。
そいつがうまいことそういう話に持って行ったのだろうと。
「間違いありません」
「だとして、どうやってものを賭けさせる?」
「あの会長は煽りに弱かったではないですか。それで行けばいいのです」
「怖いことを……。にしても、咲耶は順位はいいのか?」
やっぱり公式戦にしてくれと言う選択肢もありだ。
煽って条件をつけさせるのならばだが。
しかし咲耶は言う。
「武尊さまが目立ちたくないとおっしゃるのです。私がランキング一位になってしまったら、武尊さまに近づきにくくなってしまうではないですか」
「……なるほど、全て計算づくと。最初から公式非公式の違いも知っていたな」
「ふふふ」
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