第192話 咲耶と生徒会長

 咲耶の名前を呼んだということは、俺は無関係だということだな!

 と即座に理解して、


「……なんか俺は邪魔者みたいだから……」


 と言ってその場から逃走しようとしたのだが、


「……ん?」


 ぎゅっ、と制服の裾を握られていて、足を止める。

 顔を咲耶の方に向けるが、彼女はこちらを見ずにまっすぐに生徒会長である姫川葵を見つめていた。

 特に怯えているようではないから、俺を引っ掴んでいるのは助けを求めているわけではないのは分かる。

 そんなことをする必要がない程度には咲耶は強いのだから。

 しかし、だとすればなぜ俺は逃げられないようにされているのか……。

 ここにいろと、まぁそういうことなのは分かるが、いて何か意味があるのだろうか?

 そう思うも、こうなっては仕方がない。

 諦めてその場に棒立ちになる。

 そして二人の会話を聞く。


「見つけたと言いますけど、一体何をしにここへ? 上級生、ましてや生徒会の方々は向こうに見える気術塔がその縄張りだと聞きましたけど」


 咲耶がそう言った。

 若干喧嘩腰というか、圧力のかかった声を出しているな。

 なるほど、咲耶から姫川に対する感情はあまりいいものではないようだ、と長い付き合いの俺は察する。

 他人が聞いたら……いや、その場合も声色はともかく、内容的に喧嘩売ってる感じだな、とは分かるか。

 そんな咲耶に姫川は、


「確かにそうなのだけどね。貴女とはもう少し話をしなければならないと思ってきたのよ? 言ったでしょ?」


「……生徒会に入れという話ですか? それならお断りしたはずですが」


 ……そんなことになっていたのか。

 てっきり、因縁つけられるとか言ってたので、そういう目にすでにあっていたのかと思っていたが……。

 生徒会くらい、別にいいんじゃないか?

 君信の情報網からすると、どうやらこの学校の生徒会は相当な力を持っているようだし。

 普通の高校じゃ、ほとんど教師の手下、雑用係、みたいな扱いが普通だが、この高校では出来ることが多い上に、かなりの強権も振るえるらしい。

 それにしたって限度はあるだろうが、入っておいて損はなさそうに思える。

 姫川も言う。


「そんなに簡単に答えを出さないで、もう少し考えて欲しくて来たのよ。咲耶さん、貴女だってこれから三年間、ここで過ごすのよ。それなら早いうちに生徒会に入って、色々わかっておいた方が都合がいいと思うけど?」


「何の都合がいいのか分かりかねますが……とにかく私は生徒会に入るつもりなどありませんので。お引き取りを」


「……どうしてそこまで強硬に拒否するの? 大抵の気術系の生徒は、むしろ率先して入りたがるのよ? 生徒会に入れば、卒業した後の就職先だってかなり自由になるわ……まぁこれについては北御門のご令嬢の貴女には関係ないでしょうけど、それ以外にもメリットはたくさんあるわ」


「それなら、その入りたい人たちを入れてあげては?」


「……わかってるでしょう。ちゃんとした人じゃないと入れるわけにはいかないのよ……その点、貴女は家柄も実力も保証されているもの。ほら、生徒会には実力者もいるし、切磋琢磨すれば修行にもなるわ」


「挙げられるメリットというのはそれだけですか? だとすれば話になりませんから……」


「どうして?」


「私より下の人間に教わることは何もないということです」


「なんですって……」


「いいですか、姫川会長。私は、私より弱い人間の下には決してつきません。これはそれだけの話なのです」

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