第189話 澪、帰宅
そんな風に母上と談笑していると、
「……わしが帰ったぞー!」
という声が玄関から聞こえてくる。
しばらくして居間の障子が開き、澪が顔を出した。
「ただいまなのじゃ、薫子、それに武尊」
「おかえり、澪ちゃん」
母上がまずそう言い、続けて俺も、
「あぁ、お帰り。だが…。仙核完璧にするまで今回は帰ってこないって言ってたんじゃなかったっけ?」
そう言った。
俺の言葉に澪は苦々しい表情で、
「……今回もダメじゃったぁ……もうほとんど出来てはいるんじゃがな。どうしても仙気が固まりきらん……」
そう言って畳に突っ伏した。
澪はここしばらく、一人で仙界に頻繁に行って修行している。
その目的は仙人としての修行なのは勿論だが、これが意外に難航していた。
仙核を作る、と言う一番最初のところが難しいらしい。
だが、月姑仙女によると、これは普通らしかった。
というか、人間の場合と異なり、龍や自然物が仙人として仙核を作ろうとする場合、非常に難航することが少なくないという。
これは人間がなかなか自然と一体化出来ないのと逆で、龍は自然そのものと言えるため、逆にそれと区別した部分を作るのが大変だからだという。
説明を聞いても感覚的に理解することは俺には出来なかったが、まぁそんなこともあるのだろう。
代わりに、仙核を作り上げれば仙術を使えるようになるのは早いらしいが。
仙気も仙核なしにほとんど感じ取れているようだからな、澪は。
「別に澪には時間がたっぷりあるんだからそんなに急がなくてもいいんじゃないか?」
「お主、人ごとだと思って……」
「そりゃ人ごとだからな。それに俺はしばらく学校で忙しいし」
単純に手続きとかまだまだいっぱいありそうなんだよな。
部活への申し込みとかもそうだし、気術士は進路調査とかいきなりやるらしい。
まぁ一般人と違って就職先が限られているから、早いうちにやっておかないとどうしようもなくなるから仕方がないようだが。
あぶれてしまった気術士はそのまま邪術士になったりするわけで、学校としては全員をしっかりと就職させてやらねばという責任感が強いようだ。
邪術士が増えるのはマジ勘弁だからな。
弱い気術士であっても、道を外せば強力な力を手に入れる手段はたくさんある。
その代わり、大きな代償を支払う羽目になるし、表舞台には帰ってこられなくなるのだが、それでもなるやつはなる。
「学校かぁ……面白いのか?」
澪がなんの気なくそう尋ねてきたので、俺は答えた。
「まぁ、楽しそうな感じはするぞ。早速友達も出来たしな」
「ほほう……」
俺の言葉に母上も、
「まぁ、武尊にお友達が!? それはすごいわねぇ。咲耶ちゃんと龍輝くん、それに麗華ちゃんと薙人くんくらいなものかと思っていたけど……」
「母上……四人もいればいいと思うんだけどな……」
別に友達が少ないって感じでもないだろう。
澪だって見ようによっては友達だしな。
しかし母上は、
「そうなんだけど、心配でね。その四人は全ての事情を分かった上でのお友達でしょう。でも、そうじゃない人付き合いもできるようになるのは、気術士として大事なことだから……」
そう言うことらしい。
まぁ気持ちもわかる。
別に表面だけの付き合いを覚えろ、というわけではなく、家門の外とも関わりを持った方がいい、くらいの話だな。
なんだかんだ、今の俺の友人関係は全て、四大家関係だ。
そこで完結すると、一般の気術士についての常識も微妙になってくる。
婆娑羅には先輩方がいるが、彼らもまた、普通とは言えないエリートばかりだしな……。
そこまで考えて俺は母上に言った。
「分かったよ。でも、本当に友達できたんだ。東北の出らしくて……」
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