第188話 母上

 そして入学式は閉会の挨拶により、終わった。

 来栖先生が言ってた先輩たちが色々見せてくれるって話は、部活紹介のことだったのだろうな。

 実際に気術を使いながら色々披露してくれた部も結構あったので、気術棟でなら割と大っぴらに気術を使っても問題なさそうだということもイメージ出来た。

 

 まぁ、別に気術士は気術を一般人の目からは隠すべし、という不文律染みたものがあるにはあるが、破ったところで何か罰則があるとか叱責されまくるとかそういうことはない。

 普通の人間がそういうものを見たところで、ほとんどは見間違いとか夢を見ていたとか思うのが大半だからな。

 半ば絶対に見た、と確信していても、その後そういうものに出会わなければ、徐々に記憶は薄れていって、昔不思議なことがあったなぁ、くらいのところに落ち着く。

 意外に人間というのは不思議な現象に耐性があるというか、そこまで気にしないのだ。

 誰だってあるだろう?

 妙なものを見たかも、という記憶が。

 でも大して気にしない。

 それはそういうことなのだ。


 家に戻ると、


「あ、武尊。お帰りなさい。学校はどうだった?」


 と母上である高森薫子が出迎えてくれる。

 歳を取らない人だ、と常々思っているが、俺が高校生になっても、いまだに二十代にしか見えない美貌だ。

 気術士だから真気の扱いによって見た目も肉体も若く保たれるというのはあるのだが、それにしたって若すぎる。

 うーん?

 なぜだろう。

 そういえば昔より真気がだいぶ多くなっているか……?

 真気の量が多ければ多いほど、若さは保たれるのが基本だ。

 だからなのかもしれない。

 そんなことを考えつつ、俺は答える。


「あぁ、入学式が滞りなく行われて……まぁ面白そうだったよ。部活とかも色々あるみたいだし」


「そうなのね。私が行ってた時と変わりないのかしら? もう二十年近く前になるけれど……」


「そうか、考えてみれば、母上も通ってたんだね」


「それはそうよ。私だって生まれたその時から貴方の母親だったわけじゃないんだからね」


「分かってるよ。部活とかは入ってたの?」


「ええ、決闘部にね。まだあるのかしら?」


 いつも通りの、のほほん、とした口調で出てきた単語に俺は少し驚く。


「母上が、決闘部に……? それはまた、意外だね」


「そうかしら? 今だってそこそこ妖魔と戦うし、決闘は得意だったのよ」


 確かに母上はいまだに現役の気術士であるから、おかしくはないのだが、普段の物腰を見ているとやっぱり意外だ。

 そんなことを考える俺に、母上は言う。


「私のことはいいのよ。それより、武尊は部活、どうするの?」


「俺は術具製作部に入ろうと思ってるけど……」


 そう答えると、母上は口元に指を当てて首を傾げる。


「術具製作部? そんな部活、私が高校生の時はなかったわねぇ……」


「そうなの? もしかして新しい部なのかな……」


「かもしれないわ。術具作りは私の時代はやっぱり、あんまりやろうとする人はいなかったから。もちろん、最初から術具工の家に生まれたなら別だけど、そういう場合は家で学ぶでしょうしね」


「それが普通だね。でも今は結構、普通の気術士の家に生まれてもみんなやるのかな?」


「四大家の家門だとあまり聞かないけど、外部の家門だと、昔みたいに避ける意識はもうないみたいなことは聞くわね。だからそういう部活が出来たのかも」


「なるほどねぇ……」


 母上は一門でも、また外部の家についても、お茶会などの交流を盛んにしている人だ。

 これは美智と仲良くなったことで必然的にそうなったところがある。

 そこで得た情報はかなりのもののようで、こうやって俺が知らないことを結構教えてくれるのだった。

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