第186話 姫川の主張
──なるほど、そう来たか。
その言葉を聞いた時、俺はそう思った。
生徒会長・姫川葵の言葉を聞いた新入生たちを見れば、その多くが困惑しているようだった。
それも当然の話だろう。
何せ、先ほど理事長である美智が言ったことに明確に反抗した台詞を堂々と言ってのけたのだから。
度胸という意味では大したものだと思うが、実際には暴勇に近いのではないだろうか?
いかに生徒会長とはいえ、一生徒と理事長とではそれこそ持っている権力に大きな差がある。
しかし実際に姫川は生徒会長として普通にそこにいるのであって、これも奇妙な話だな。
不思議に思って俺はステージ横の椅子に座っている美智に視線を向けると、彼女はこちらに気付き、そして肩を竦めて苦笑した。
……どうも、何か事情がありそうだな。
姫川の演説は続く。
『……私たち気術総合学院高等部の生徒は、ここを卒業すればいずれ必ず、妖魔との戦いに身を投じることになります。そこで頼れるのは一にも二にも、自らの実力、腕っぷしのみ。皆さんは仲間にするなら、強力な気術士と、軟弱な気術士とを比べたらどちらが良いと思われますか? 頼もしいのはどちらでしょうか? ……考えるまでもないと思います。そしてそれが答えです……』
……確かに間違いとは言えない部分はある。
というか、基本的にはそれで正しい。
だが、それだけが全てのように語るのもまた違うと俺は思う。
大体、それが正しいというのなら、俺は前世、死ぬことはなかったんじゃないか?
俺の周りにいたのはまさに強力な気術士三人だったのだから。
もしくは、俺自身が弱かったのが悪かったと?
……まぁ、それはそうではあるか。
だからこそ、俺は今世においては力を求めているのだから。
けれどだからと言って、俺は俺より弱い人間を敬わないとか見下すとか、そういうつもりは一切ない。
かつて俺はまさにそのような扱いを受けて……その苦しみ、辛さを誰よりも理解したから。
そもそも、弱かろうが何だろうが、出来る仕事はたくさんある。
気術士は、一人で戦っているわけではない。
後方支援してくれる人々がいるお陰で戦い続けることが出来るのだ。
そう思ったが、姫川の話は続く。
『それを裏付ける制度が、この学院におけるランキング制です。生徒たちに実力を競わせ、順位づけし、それによって優遇を受けられる。そのようになっています。順位が低い者には高い者に文句を言う権利はありません。言いたいのならば、強くなること、上り詰めること、それだけが求められます』
ランキング制をそのように捉えることは確かにできない訳じゃないな。
だが、競わせて生徒たちの実力向上を図る目的はあっても、順位が上だと人としても偉い、みたいな価値観のもとにある制度ではないだろう。
それも理解してのあえての曲解だろうか?
だとすれば随分と悪意があるというか……そうすることによって、学院での地位を確保しているのかな。
この感じだと、あの姫川の順位も高いのだろうな。
そう考えていると、姫川は言った。
『……では私はどうなのか。私の順位は高いのか。そう思われた方もいるでしょう。お気持ちは理解します。そしてはっきりと言っておきましょう。私のランキング順位は、一位です。私の考えに反論したいのなら、まず、私を倒すことです。それまで、私は考えを変えるつもりはありません……以上です」
そして、姫川は壇上を降りた。
ホール内はまるで嵐が過ぎ去った後かのような妙な沈黙に満ちていたが、そのまま式次第は進む。
「……なんだかうちの生徒会長はとんでもないやつっぽいな……」
君信の引きつったような笑みと共に出たそんな台詞が、この学院を端的に表しているような気がした。
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