第185話 告辞
「……ここまでは普通の学校の入学式と大して変わらないな」
俺がぽつりとそう呟くと、後ろの君信が、
「そりゃ、いくら気術士だからってそういうのに変なひねりは入れないだろ……」
と冷静に突っ込んでくる。
まぁそりゃそうか。
しかし、
『……理事長告辞。北御門美智様、よろしくお願いします』
との声が聞こえてきたときは、少しドキリ、とした。
美智の姿はさっき、ホールが明るかった時にはなかったからだ。
しかし、探してみるとすでに美智の真気の気配がそこにあった。
どこかのタイミングで入ってきたのだろう。
そして俺を驚かせる為か、可能な限り真気を隠して来たな。
式次第にはしっかり理事長告示の項目は書いてあったので、まぁ来るのだろうなというのは分かっていたが、美智は忙しく、代理の可能性もなくはなかっただけに、少し驚いた。
壇上に上がるとき、美智は俺と咲耶、それに龍輝を見て少し満足げに微笑む。
企みは成功、と言いたいようだ。
いくつになっても妹は妹なのかもしれないな、とその表情を見て思った。
『……ただいま、ご紹介に預かりました、理事長の北御門美智でございます……』
そんな言葉から始まった美智の言葉は、意外にも当たり障りのないものだった。
スピーチにすら俺たちを驚かせる要素を含ませるのかも、と考えていたのは杞憂だったようだ。
しかし、その中で引っかかったというか、そういうのもあるのか、と思ったくだりはあった。
それは……。
『この高校で、皆さんは多くの経験を積まれるでしょう。特に、実戦の経験は今までの人生の中でも過酷なものとなると思います。そしてだからこそ、皆さんはいずれ、実力主義に傾倒することもあるかもしれません。そのこと自体は悪くはないのですが、それを理由にして他者に対する優しさを見失うことだけはやめてください。私たち気術士の使命は、強きをくじき、弱きを守ること。妖魔の脅威から人々を守護することにあるのですから』
そう言った部分だった。
当たり前と言えば当たり前の話だが、これを強調するのには少し、ん?となってしまった。
けれど、その理由はその後に行われた、《在校生による歓迎の言葉》で明らかになった。
美智の告辞が終わり、
『美智様、ありがとうございました』
の声と供に、美智が壇上から降りる。
そしてそのすぐ後に、
『それでは次に《在校生による歓迎の言葉》、生徒会長・
そんなアナウンスが流れる。
姫川葵、それがこの高校の生徒会長の名前らしい。
それを聞いた君信が後ろからひそひそ声で言う。
「……姫川って、あの姫川か……」
「なんだ、知ってるのか?」
「京都の呪術師協会の重鎮を務める家だよ。俺でも知ってるんだが、お前知らないのか」
「……関西の方には疎いんだよな。凄い家なのか?」
「まぁ……四大家ほどじゃないが、そこそこな。それだけに、どうしてここにいるのか不思議だ。関西にだって呪術師協会主体の学校なり教育機関があるんだがな……」
不思議そうな君信だったが、姫川は静かに壇上に登る。
楚々とした雰囲気の、大和撫子、という感じの女性に見えた。
咲耶に少し近い印象かもしれない。
そんな彼女がマイクに向けて言う。
『ただいまご紹介に預かりました、生徒会長の姫川葵です。これから皆さんが高校生活を送る中で、何度も壇上で見る顔かと思いますので、良く覚えておいてくださいね』
まずそう言って微笑んだ。
その表情にはなんとも言えない魅力があり、新入生のうち、特に男子は引き込まれたような顔をしている者が多かった。
俺は……うーん、何か微妙な感じがしてそこまで魅了はされなかった。
何とも言葉にしがたいが。
そんな姫川が続ける。
『まず皆さんに言っておきたいのは、この学校では実力が全てということです。弱い気術士は、敬われません。それを心に留めておいてください』
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