第183話 予定
「ま、これでここで話すべきことは大体終わりだ。だが、これだけではこれからの学校生活のイメージができない者もいるだろう。しかし、心配ない。これから入学式なのはわかっていると思うが、そこで先輩たちが色々見せてくれるからな」
来栖先生がそう言う。
今日の日程は、まず軽い学校についての説明があり、その後に入学式の式次第についてが話され、そのまま入学式へ、という形になるという話だった。
だからおかしくはないが……。
「一般生徒と俺たちは同じ入学式に参列するのでは?」
と誰かが尋ねる。
これについて来栖先生は、
「それだと何も見せられんからな。別々だよ。まぁもしかしたら後で話を合わせるのが大変かも知れないが、その辺も練習だからな。慣れておけ」
そう言った。
話を合わせるどうこうは、あれだな。
一般人が気術士を必要とするような事件に巻き込まれた時に、気術士はその一般人をうまく丸め込む手管が必要になるのだが、それのことだろう。
単純に色々話を聞く、とかもあるが、事件が全て解決した後、あれは夢だったんですか、現実だったんですか、みたいなことを聞かれたり、何も見てはいないけれども何か変なことがあったと認識している一般時などもいて、そういう場合に、いや何もありませんでしたよ、とか、見間違えたんじゃないですかね、みたいなことを強弁することが間々あるのだ。
これについては話が上手いとか下手とかじゃなくて、とにかく場数を踏んで押し切る技術を身につけるしかない。
学校での一般人との関わりは、そのための練習、というわけだな。
練習台にされる一般人が気の毒な気もするが、別に毎回頭の中身を弄るというわけではないのでいいだろう。
場合によって、こっちの世界を知ってもらった上で、引き込むようなことも行われているらしい。
どうしてもどうにもならない場合は、まぁ、多少記憶を弄られることもありそうだが、こればっかりは気術士の世界を世間から隠すためなのでしょうがない。
本当に隠したいなら最初からこんなバレやすい場所作るなとも思うが、社会に出てからそういう経験を積もうと思ってもなかなか積めないからな。
誤魔化しが聞くうちになんとかすべきということなのだろう。
そんなことを考えていると、
『……入学式の準備が整いましたので、各クラスは気術棟ホールまでお越しください』
放送設備からそんな声が流れてくる。
こんなに堂々と流しても大丈夫なのか、とも思うが、声には真気の揺らぎがあった。
一定の真気を持っていなければ、聞こえない声というやつだな。
これを使って会話することが、気術士には間々ある。
普通に話すよりも少しばかり遠くにも伝えられる。
極めれば電話のようにどこにでも伝えられるのだが、そこまで出来る術者は少数だ。
式を飛ばした方が簡単だな。
というか正直、身もふたもない話かもしれないが、現代ならスマホでいい。
電波が遮られているような状況においてのみ、別の手段が使われるのだ。
「よし、じゃあお前ら、気術棟ホールに行くぞ。入学式はそこでやるからな。しっかり並べ。あいうえお順だからな……」
そう言いながら、来栖先生は俺たちを廊下に連れ出し、並ばせ、そのまま気術棟へ向かって歩き出した。
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