第182話 成績

 来栖先生はだいぶ軽い口調で言っているし、俺にとってもそのくらいの話に感じてしまうが、他の生徒たちの顔色を見る限り、全くそんな話ではないようだ。

 深刻な顔をしている者がそれなりにいる。

 気術士なんだから、誰でも命をかける覚悟くらい持ってるものではないのか?

 と、思うんだが、それもまた異常な感覚なのだろうな、と俺は察する。

 考えてみれば、一般人で高校生くらいの時点で自らの仕事で命を落とすそれなりの可能性があることを受け入れている人間など、この国にはほとんどいないだろう。

 いるわけがないのだ。

 この平和な国で……。

 そしてそんな国で生きてきた子供が、たとえ気術士であるとしても、そんな事態に陥るなどということを具体的に想像することは、中々に難しい。

 そういうことではないだろうか。

 だからこそ、この高校では実技を徹底的に行うのだろう。

 これから自分たちが戦う相手が、戦う場所が、どれだけ危険なのかを、骨の髄まで理解させるために。

 そしてそんな相手を前にしても、自分の命を守れるだけの技量を身につけさせるために。

 これは気術士として生きていきにはどうしても必要なことだからな……。

 幼い頃から戦場に投げ込まれてすでに身につけてしまっている人間は、異常者なのだ。

 この様子だと、咲耶や龍輝も面食らっているのではないだろうか。

 あの二人も覚悟は元々決まってる方だから……。

 まぁでも、三年間かけて、みんなそれを身につけるのだし、それほど気にすることでもないか?

 ただ、多くのクラスメイトはそういう感覚なのだ、ということは頭に入れておかなければならないな。

 対人戦で生徒同士で戦うこともあるという。

 そういう時に、殺気を出しすぎたりしたらトラウマを負わせてしまうかも知れないし。

 気をつけなければ、と思った。


「……まぁ、色々話して怖くなった奴らもいると思う。だが、大丈夫だ」


 来栖先生はそう言った。


「どうしてそんなことが言えるんですか?」


 生徒の誰かが、少し泣き出しそうな声で言った。

 情けないな、と思うが、やっぱり何の覚悟も持ってこなかった状態でいきなり現実を突きつけられると、辛いのかも知れない。

 そんな生徒の言葉に来栖先生は答える。


「そりゃ、俺はここでの教員歴がそこそこあるからな。今のお前らみたいなのも、そしてそんな奴らが精悍な顔で卒業していくのも見てるからだ。三年間、ここで頑張れば、お前たちも必ず、そうやって卒業していけるさ。わかっていると思うが、ここは気術士のエリート校だからな。卒業すれば引くて数多だぞ。あまりにも成績がひどいと問題だから、頑張らなきゃならないが……」


 最後に付け加えた言葉に、少しばかり教室の空気は明るくなる。

 それから来栖先生は、あ、と思い出したように叫び、言う。


「そうそう、成績で思い出したが、気術系の成績は、座学系は普通に試験の成績で判断するが、実技系はランキング制度があってな。これが大きく反映されるから、ちょっと頭に入れておけ」


 ランキング制度?

 首を傾げる皆んなに、来栖先生は言う。


「対人戦の強さを基準に、生徒に順位づけしてるんだよ。これは、誰かと戦って勝つことによって上昇し、負けると低下する。基本的には下位のやつが上位のやつに挑戦しないと順位は上がらないからな。あと、ランキングは学年でのランキングと、全校でのランキングがある。学年でのランキングは割と気軽に挑戦できるが、全校ランキングはイベントごとに用意された機会じゃなければ上下しない。どんなイベントがあるかってのは……複数あるから後でプリントを渡すから読み込んでおけ」

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