第181話 実技について

「気術系の授業には、座学と実技がある。まぁ、当然分かってるだろうが……」


 来栖が言ったこれについては、誰も疑問には思わない。

 今までの人生で学んできた気術の内容が、まさにそうだからな。

 気術の仕組みや術を座学と実技で学ぶ。

 ただそれだけの話だ。

 来栖は続ける。


「ただ、ここでは実技の方に大きな比重が置かれる。座学の方は三分の一くらいだな」


「それはどうしてですか?」


 とクラスメイトの誰かが尋ねる。

 来栖は言う。


「簡単な話だ。お前たちは、ここを卒業したら大半の者は、妖魔との戦いに身を投じることになるだろう。その時にまともに戦えませんじゃ問題だからな……この中で実戦経験がある者は?」


 そんなもの、ここに入るくらいなんだからみんなあるんじゃないか、と俺は思ってしまったが、意外にも手を挙げたのは半分にも満たない。

 全体の四分の一くらいだろうか。

 それを見た来栖は頷いて、言う。


「まぁ、そんなもんだろうな。それに手を挙げた奴らにしても、魑魅魍魎や弱い霊体を祓ったとか、そんなものが大半だと思う」


 マジか、となったのは言うまでもない。

 君信もそんなようなことを言っていたが、あれは彼だけでなく、多くの気術士の子供に共通することだったのか?

 だが、四大家の子供なら、もっと小さい頃から普通に実戦を……って。

 あれか。

 うちらの家門が全体的に戦闘狂なだけなのか、もしかして。

 英才教育といえば聞こえがいいが、実際には子供を死地に送っているわけだしな。

 みんなそうだし、と思って今まで疑問に思ってこなかったが、異常な状況だったのかも知れない……。

 来栖先生は続ける。


「もちろん、魑魅魍魎の退治だって、悪霊の除霊だって大事だし大変な仕事だ。失敗するととんでもない被害を出すこともあるからな。だが、妖魔退治はそれらとはレベルが違う危険性を持つ仕事だ。気術士がその場でバラバラにされて死ぬ、なんてことが普通に起こる。お前たちはそんな現場に、高校を卒業したら即座に行くことになるんだ。自信があるか? 死なないって自信が……」


 脅すようにそう言った来栖先生は、生徒たちをぐるりと見渡した。

 多くの生徒が不安そうな表情をしている。

 中には特段何とも思ってないような顔もあるが、それこそすでに実戦経験済み、の奴らだろうな。

 そんなこと当たり前だろ、と言う顔をしているから。


「とはいえ、そんな結果になるなんて、当然ながら誰も望んじゃいない。だから、高校では徹底的に実技を鍛えてもらうのさ。実戦を繰り返して、な」


「具体的にどんなことをするんですか?」


 君信が尋ねた。

 他の多くのクラスメイトはどこか震えてしまっているから、質問できる精神状態の人間が少なかった。

 来栖先生は特に物怖じせずに尋ねてきた君信に感心したような表情をし、答える。


「いくつかあるが、わかりやすいのは二つだな。対人戦闘と、捕獲した妖魔との戦闘だ」


「妖魔との戦闘はわかるんですが、対人ですか?」


「あぁ。生徒同士で戦って訓練してもらう。教師が相手になることもある。たまに外部から人を招くこともある」


「妖魔と戦うのに、人と訓練するのは……?」


「おかしいか? まぁ気持ちはわかる。だが、お前らは卒業した後、妖魔だけでなく、邪術師との戦いもある。人と戦う術を学んでおくのは必要なことだ。それに妖魔は普通に妖術使ってくるからな。性質は気術とほぼ同じだから、そういう意味でも役に立つぞ」

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