第176話 気術士界

「つっても、どっから話せばいいのか悩ましいが……」


 と頭をポリポリと掻きながら考え込む君信に俺は言う。


「いっそゼロからの方がいいかもな。知ってるところは知ってるって言うからさ」


「そうか? じゃあ何も知らない一般人に俺たちのことを解説するときみたいな感じで話すぜ」


「あぁ、それでいい」


 実際、そのような機会もたまにある。

 基本的に気術士の存在は一般人には秘密ではあるけれども、完全に誰にも言わないでおくというのは不可能だ。

 妖魔に襲われる一般人というのは毎年かなりの数、出るし、その全員の記憶を消して回るわけにもいかない。

 記憶消去系は危険な術だからな……可能な限りやらないのだ。

 そのため、密かに倒し、夢だったと思わせる、くらいが最善だと言われているがそれが不可能な場合も多い。

 そういう時は、あえてしっかりと説明することもあるわけだ。

 実際、知られたところで何か問題があるわけでもないからな。

 それでも隠しているのは、パニックを避けるため、という意味合いが強い。

 君信はもしかしたら、既に何度かそういう一般人への説明を経験しているのかも知れなかった。

 

「まず、気術士についてだが、これは真気を扱う術士全般を指してるってのは流石に言うまでもないな」


「あぁ。まぁ別の呼び名も色々あるけどな。西洋なら魔術師、日本であっても関西なら呪術師と呼ぶこともあるし、他にも色々だ」


「そうだな。で、日本で気術士を管理してる元締めみたいな機関もいくつもあって、関東圏だと四大家が最も知られている。四大家は日本全体に大きな力を持った団体で……まぁ、気術士を一般サラリーマンだとすれば、日本を代表する大企業ってところか」


「……なるほど、そういう認識なのか」


「そこからか? ただ、他にも大企業はいくつかある。関西では呪術がって話があったが、呪術師協会とかはでかいな。東北だと岩手は遠野に修験者の団体がいくつかあって、連合してる修験道連合とかもあるし……他には……あぁ、沖縄にはユタやノロがいるが、こいつらは個人事業主感が強いな」


「その辺りは名前は知ってるが、あんまり関わったことがないな」


 これは前世でも同じだ。

 俺は一応、北御門の御曹司、と呼ばれる立場だったが、北御門を継ぐのは美智で決まっていたから、そういう他の地域の団体との交流や折衝は彼女がほぼしていた。

 それにまだ十五くらいだったからな。

 もう少し年が行けば、俺でもそういう場への出席を求められたかも知れないが、流石にまだ無かった。

 そして、あの頃の俺にはさしたる余裕がなく、どうやって腕をつけるかばかり考えていたから、その辺りの組織関係とかについての興味が薄かった。

 だから参考になる話だ。

 君信は続ける。


「俺も正直関わったことはないな。基本的に気術士はどこでも、自分の縄張りを重視するから……そこから中々出でこないもんだ。これはそもそも土地との関係で力を強めたり、あとは何か封印されててそれを守ってるとかの場合も少なくないから、仕方がない話だがな。四大家はそういう意味では少し異質かも知れねぇな」


「どういう意味だ?」


「四大家は結構、いろんな地域に人材を派遣するからだよ。婆娑羅なんかもそういう意識を継いでるのか、そういう傾向にあるだろ? 確かあそこは四大家からあぶれた人たちが中心って話だから、そういう性質になるのも納得だが……」


「そういう風に見えてるのか……確かに、間違ってはいない、か……」


「お、やっぱりそうなのか? で、続きだが……」

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