第175話 交渉

「あぁ……なるほど、そういうことか……というか、あれやっぱり目立ってたんだな……」


 俺が改めてさっきのことを周囲がどう認識していたかを知り、がっくりきていると、君信は慌てたように言う。


「いや! 別に見ようと思って見てたわけじゃないんだぜ!? でもほら、あんまりにも美少女が、お前みたいな……普通の奴に話しかけるもんだから、どうも気になったというか……」


 咲耶が美少女、か。

 まぁ確かにそれについては否定できない。

 客観的に見て美人なのは間違いないからだ。

 ただ、考えてみると俺の周囲は美人ばかりだ。

 母上からしてまるで高校生の親とは思えない美しい人だし、光枝さんも狐の仙人だけあってかどこか浮世離れした美貌を持っている。

 龍の澪だって、力強さを感じる美女だ。

 咲耶もそういうのの一員で……そしてだからこそ、俺はそこにそこまで特別なものを感じていなかった。

 でも、考えてみればそれだけ周囲に美女がいるというのは何か異様かもしれない。

 俺の見た目は本当にごく普通だしな……父上はイケメンなのだが、俺にはそれがそこまで受け継がれていない。

 ただ、目立たないようにする、という目的を考えると、むしろありがたい話だった。

 事実、君信はそう感じたようだし。


「そうだったか。いや、何も俺は怒ったりとかしてないから、そんな慌てなくてもいい」


「え、そうか? 良かった……なんか実際に話す前は大した事ねぇ奴だと思ってたんだが、こうして会話すると相当やばい奴に見えるからさ……怒らせたらやべぇかもと」


「俺は温厚だぞ」


 殺されたりしない限りはな。

 だが、景子も慎司も未だに許しはしていない。

 殺すつもりだ。

 そんな俺の気持ちを知るはずもない君信はほっとしたようで、


「ありがたい話だ。で、結局あの美少女とはどういう関係なんだ?」


 と本題に入ってきた。

 俺はこれに普通に答える。


「あぁ、お前の予想通り、あれは四大家、北御門家本家のご令嬢だよ。北御門咲耶だ」


「おっ! やっぱりか! 俺の見立ては確かだったみたいだな……しかしなんでまたお前はあんなに仲良さげなんだ?」


「俺も四大家の家門の一員だからだよ。高森家は……まぁ序列こそ大したことないが、一応分家の一つだからな」


「……マジか。悪い、流石になれなれしすぎたか、俺。四大家家門の御曹司に……」


「序列は大したことないって言ってるだろ? 一応四大家の分家だが、本家とは雲泥の差だよ……」


「そうなのか? 気術士界じゃ、四大家って言ったら分家まで含めて格が違うって言われてるだろうが。俺みたいな東北の田舎町から出てきたようなのとは、もう存在そのものがな……」


 これは意外な話だった。

 というか、考えてみれば、俺は四大家を外側から見れたことがないんだよな。

 常に内側にいたし、知り合いも全て関係者だ。

 それを考えると、全く四大家に忖度することのない意見というのは一度聞いてみたくはあった。

 だから、尋ねる。


「俺は四大家の内側の人間だから、その辺の感覚が分からないんだが……よければ君信から見た、四大家とか、気術士界の感じとか教えてくれないか? なんだか常識が無いみたいで嫌だからな……」


「そりゃ構わねぇが、大した話は知らねぇぞ? それと、それならお前も四大家のこと、俺にも教えてくれよ。東北じゃさっぱりそういう話が入ってこないんだ」


「四大家について知りたいのか?」


「おう。いずれ学校出たら就職だろ? やっぱでかい家にはコネが欲しいじゃねぇか」


「あぁ、そういう……。まぁ構わないが」


「おっしゃ! じゃあ俺も話すぜ……」

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