第174話 クラスメイト

「……おはよう!」


 教師が来るまですることがないな、と適当な席に座ってぼんやりとしていると、ふとそんな声が俺にかけられた。

 椅子を引く音がし、そこに誰かがドカリ、と腰掛ける。

 顔を上げると、そこには一人の生徒がいた。

 長髪の髪の毛を後ろに縛り、短めのポニーテール、と言った感じだがこいつはどう見ても男だ。

 おしゃれでしている……という感じでもなさそうだが、顔立ちは端正だった。

 ただ女性と見間違えることはまずないな、という整い方だが。

 

「……あぁ、おはよう。そこに座ったって事はクラスメイトってことでいいんだよな?」


 一応の確認に俺がそう尋ねると、彼は言う。


「そうだな。俺は角掛君信つのかけきみのぶ。あんたは?」


 なれなれしい奴だな、とちょっとは思ったが、新入生の初期というのはそういう図々しさを発揮しないと知り合いは作れない。

 俺はそういうのが苦手なタイプだから、むしろありがたいものがあった。

 かといって、何の理由もなく、単純に友人になりたいからと俺に話しかけたとも思ってはいないが……何せ、こいつは気術士だ。

 体に流れている真気で分かる。

 一般人も真気は流れているし、使われているが、意識的に使われている場合と比べると微々たるものだ。

 目の前のこいつ……君信はしっかり制御している。


「俺は高森武尊。よろしくな……で、何か用か? 俺たちは知り合いって訳じゃないと思うんだが」


 ストレートにそう尋ねると、君信は大げさなジェスチャーをしつつ、言う。


「おいおい、ご挨拶だな。これからクラスメイトになるんだ、とにかく知り合いになりたいと思っちゃおかしいか?」


「おかしくはない……が、ちょっと修行不足だな。揺らいだ・・・・ぞ?」


 まっすぐに視線を向けてそう言うと、君信は息を呑んだ。

 何が揺らいだかって、それは勿論、君信の真気だ。

 緊張したとき、動揺したとき、嘘をついたとき、人の体内の真気は僅かに揺れる時がある。

 これは修行をして全くそのようなことが起こらないようにすることも可能だが、君信はまだまだその域には達していないようだ。

 まぁ、別に俺のことを騙そうと思って、とか悪意をもって、とかそういうつもりもなさそうだが。


「……おいおい、油断も隙もねぇな。あんた……武尊は。これでもそこそこの腕のつもりなんだが」


「いや、その年にしては良い腕してるよ。みんな自分の力は隠してるみたいだが、君信ほどには出来てない。静音結界の張り方も見事だ。完全に張るんじゃなくて、うまく誤魔化すのはこの場においては正しい」


 通常、こんな話を教室で普通にしていたら、変な目で見られるのは間違いない。

 よくて厨二病扱いだろう。

 しかし、今、俺たちの会話に興味を抱いている人間はいない。

 なぜか。

 それは君信が静音結界を張っているからだ。

 それも、完全に音を遮断するのではなく、聞こえても気にならないような音量と雑音になるように、うまく形成している。

 会話してるのに完全に無音になるのはおかしいからな。

 気遣いが良い。


「……全て看破されてるのか。お前何もんだよ……」


「普通の気術士の卵だな。で、お前は何が目的だ?」


「……はぁ。分かった分かった。って言ってもたいしたことじゃないぞ? さっき校門前でもの凄い美人……俺が推測するに四大家のお嬢様だと思うが、その人と話してたろ? だから武尊、あんたがどんな奴が探りを入れたくてよ」

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