第173話 とある一般気術士生徒の経験(下)

 そのまま二人を追いかけるか、少し迷った。

 しかし、俺はやめておくことにした。

 あれだけの真気を持ち、かつ制御している人だ。

 ある程度の距離に近づけば、尾行していることには100%気づく。

 そもそも尾行しなきゃならない理由だって俺にはないしな。

 どれだけ美しかろうが、大きな家の子だろうが、これからはただの同級生だ。

 ああいう子と付き合えたら薔薇色の学生生活が……とか少しも思わないと言ったら嘘になるが、逆に大変だろうし俺の手に負えるような存在ではないという冷静な判断力も残っていた。

 だから普通に昇降口に言って、普通に自分の教室に向かうことにした。

 まぁ四大家の人なのだから、将来のためにコネとか作れたらいいなとかは思うが、それこそ簡単なことではないしな。

 もし話す機会があれば、少し話してみようというくらいに思っておいた方がいいだろう。


 それで俺のクラスは……三組だったか。

 気術総合学院というか四季高校の教室は、一年生が一階に、そして学年が上がる度とに教室の上の階になっていく。

 だから、俺が行くべきは一階の端の方だな。

 どんなクラスメイトがいるか、楽しみだ。

 それは、単純に新しい友人を作る、という意味と、気術士としての知り合いを作れる、と言う意味でもだ。

 俺が中学まで住んでいた東北では、そもそもの人口が少ないから、気術士の子供も少なかったんだよな。

 同年代となると、同じ市でも二、三人しかいないなんてこともざらだ。

 それでなんとか、県内の妖魔退治を担っているのだから、地方の気術士は激務である。

 まぁでも、強力な妖魔退治の大半は名家の人がやって、俺の家みたいな小さな家は弱い妖魔や、どこかに逃げ去ってしまった妖魔をどぶさらいよろしく探し回って倒す、みたいなことをこなしているんだが。

 しかし、都会となると違う。

 小さな家でも、妖魔退治の経験はかなり積めると聞いていた。

 それは、妖魔が人の悪意で育つことも少なくなく、それが故に、妖魔自体の出現率が人口の少ない地域よりも高いからだ。

 困った話だが、それだけに大勢の気術士が必要とされている。

 そのため、通常の職業と同じように、地方から都会へと気術士が流れやすいという現状もある。

 結果として起こるのが、強力な気術士は都会に集まりやすく、地方では技のレベルも低くなってしまうと言うことだ。

 実際、俺も東北にいれば、同年代の間ではそれなりの腕扱いになってしまうくらいには。

 だが、俺はそれで満足はできなかった。

 俺は弱い。

 少しでも腕を上げたくて、だからわざわざこうして四季高校までやってきているところがある。

 クラスメイトたちと知己を得て、腕をあげ、職を得る。

 それが俺の、四季高校での目標だった。


 *****


 ……ん?

 もしかしてあれって……。

   

 一年三組の教室にたどり着くと、すでに席についたり、その辺でだべっているクラスメイトたちの姿が見えた。

 大体三分の一くらいが気術士で、残りは一般人だな。

 事前に受けた説明によると、この一般人にも全く気術士とは無関係なのと、多少関わりがあるため気術士のことを知っている一般人がいるらしい。

 今の所、それを見分ける方法はないから、一般人に不用意に気術士の話はすべきでないと言われる。

 まぁそれはいいのだが、それよりも俺が気になったのは、さっきの美少女に話しかけられていた少年が、一人端っこの席に座っているのが見えたからだ。

 多分、間違い無いよな?

 しかし、どうしたものか。

 話しかけるか、話しかけないか……。

 仲良くなって、色々聞きたいが、そういう打算もどうかなとか、思ってしまうのだ。


 でも……。

 まぁ、なんか興味あるってのは事実だしな。

 正直に言えば、そこまで嫌な奴にはならんのではないか?


 そこまで考えた俺は、その少年のところに真っ直ぐ向かい、話しかけることにした。

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