第170話 学校での扱い
「……ところで、先ほど私を無視して校舎に入ろうとしていましたね?」
じろり、とした視線を向けながら俺にそう尋ねた咲耶。
そんな彼女に俺は苦笑しながら返答する。
「悪かったよ。でも、前から言ってただろ? 高校ではあんまり目立たないようにしたいって」
「それは確かにそうですが……」
これについては事実で、中学までは北御門一門の気術士の子供しかいなかった。
しかし、高校からはそうもいかないため、あまり手の内を見せたくないと考えて、咲耶にも龍輝にも伝ええていた。
そもそも多少隠れたところで、目立たないということが可能なのか?
お前は北御門咲耶の許嫁だろう?
という疑問も生じるとは思うが、これが実のところ可能なのだ。
というのは、そもそもの子供の数にある。
北御門一門がいかに大きな一門であると言っても、あくまでも縁戚関係などで結ばれた親族で構成されている集団だ。
そのため、ほとんどの子供が気術総合学院に通うと言っても、同じ時期に通う子供の数というのはそこまで多くない。
今、気術総合学院に在籍する北御門一門の子供は、全部で十人いるかいないか、くらいに過ぎないのだ。
他の家門にしても同様である。
北御門一門ではないが、その傘下にある一門とか、協力関係にある一門や家まで入れてくると大きく数が変わってくるが、そこまでになると咲耶のことはともかく、その許嫁に過ぎない俺のことを直接知っている人間というのはいなくなるからな。
許嫁、という事実についてもそこまで喧伝されているわけではない。
そのため、あくまでも目立たない、
ただ、咲耶に話しかけられて、こうして昇降口を一緒に歩いているから、もう多少目をつけられてしまった感はあるが、それでもまだセーフかな。
「他の一門……西園寺と南雲について、高校で少しずつ探りを入れていきたいからな。変に目立つとマークされるだろうし」
「どちらの家門もトップは武尊様のことを知っているわけですから、ある程度目は付けられているとは思いますが」
「末端となると話は別だろう。俺のことなんて聞いたこともないって奴らが大半さ。それに、それぞれの家門そのものじゃなくて、傘下の家や家門から探ろうと思ってるしな」
「それでしたら意味はありそうですね……はぁ、仕方がありません。高校では許嫁だと言うのはやめておきましょうか」
「お、いいのか?」
「許嫁である事実は何があろうと変わりませんからね。それを喧伝するか否かは私にとってどうでもいいことです。ただ、おかしな方々が寄って来るのは少し困りますが……」
「その辺は龍輝に上手くやってもらえよ。同じクラスになっただろ?」
「龍輝は龍輝で大変そうなのですけどね……はぁ、どうして武尊様と同じクラスになれなかったのか……」
「その辺も目的をよく分かってる美智様が上手く調整してくれたんだろうさ」
実際には、俺は直接美智からそう言われているので推測でもなんでもないが、今でも美智と俺との真実の関係を知っているのは、美智本人と、そして重蔵だけだ。
咲耶や龍輝であっても、まだ言えることじゃない。
というか、言わないほうがいい事だな。
これについては知らない方が、二人の身の安全にもなると思うから。
俺が俺だと分かってしまえば、景子と慎司は確実に俺の命を狙って来るだろう。
知っている者も含めて。
彼らの栄達の基礎を、俺という存在は破壊し切ることが出来てしまうから。
「さて、俺は……三組だったか。咲耶は……」
「一組ですよ。武尊様……」
そして咲耶が名残惜しそうにこちらに顔を寄せてくる。
「なんだ?」
俺がそう尋ねると、彼女は耳元でつぶやいた。
「許嫁については喧伝しませんが、学校でも会いにきてくださいね?」
……最近、咲耶にはこういうところがある。
可愛いとは思うが、周囲に誤解が生まれそうな気がするが……いや、今は廊下に人の気配はないから分かってやってるのかもしれない。
だから俺は言う。
「……分かった分かった。だから、少し距離をとってくれ」
「ふふ。ではまた、武尊様」
「あぁ、またな」
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