第169話 校門前
「……ここに今日から通うのか……」
バス停でバスを下車すると、目の前にはもう四季高等学校の姿がそこにあった。
校舎はいくつもあり、一見して敷地もかなり広大であるが、その割に生徒数は見た目よりも少ない。
全校生徒で四百人程度だというから、まぁ普通だろうな。
敷地や校舎の大きさの割に生徒数が少ないのは、大半の設備が気術士のためのものだからで、一般生徒にとっては無用の長物ばかりだ。
加えて、気術士でなければ認識することができない建物や空間もたくさんあるので、一般人から見れば普通の大きさの高校に見えているだろう。
ちなみに偏差値はそこそこ高いが、東大京大に余裕で行けますよ、みたいなレベルにはない。
行く人もまぁいるにはいるかな、という緩い校風であるという認識だ。
なぜさほど学問に力を入れていないのか、といえばそれは簡単な話で、あくまでもここは気術士のための学校だからだ。
ここに入れる時点で、気術士としてはエリートの扱いになる。
そこまででもない気術士の子供は、他の高校、というか普通の高校に行って、気術士としての修行は家で、ということになるのだ。
じゃあ、何か試験などはなかったのか、という疑問も生まれるだろうが、これについては俺はなかった。
言わずと知れた妹パワーだ。
というのは冗談として、四大家にはそれぞれ、毎年固定の枠というのがいくつか確保されていて、そこに入れてもらっているのだな。
そのため、通常は試験があるが、俺はそれをせずに済んでいる。
……まぁ、妹パワーか。
でも試験を受けたって入れたぞ。
試験は気術の実践で、気術陣の形成とか、気術を実際に使って見せたりとか、あとは低級の妖魔との戦闘や、気術士同士の模擬戦などらしいが、いずれに参加しても俺ならば楽勝だと美智からお墨付きを得ているのだ。
じゃあなんだって参加しなかったんだ、枠の無駄遣いじゃないか、と言われそうだが、俺が参加した場合、他の受験者のやる気を削いだり、会場を破壊したりしかねないからダメだと言われた。
別にそんなことしない、手加減もしっかりすると言い募ったのだが、気づけば合格通知が家に届いていた。
酷い話である。
「さて、そろそろ中に入るか……」
独り言を呟きながら、校門まで進むと、校門前に黒塗りの車が止まり、黒づくめの男が運転席から降りてきて、後部座席のドアを開けた。
そこから現れた人物に、登校中の生徒たちは目を瞠った。
長く美しい黒髪に、真っ白な肌、切れ長の目はどこか妖しく、それでいて動きは優雅で卒がない。
見るからにお嬢様、という人物だったからだ。
しかし、俺にとっては見慣れたもので、どうしたものか、と悩む。
高校においてはあまり目立ちたくないので、気づかなかったふりをしてこのまま昇降口に向かう、という手段が頭にすぐに浮かんだ。
けれど、そう考えたときにはすでに、彼女のまっすぐな視線が、俺の顔を捉えていた。
ゆっくりと進む彼女の前にはすでに人だかりが少しできていたが、
「どいてくれますか?」
という言葉と共に、ざざっ、と皆、モーセの海割りの如く、両側に退き道を開く。
そして彼女は俺の目の前までやってきて、
「……おはようございます。武尊様」
そう言ってきた。
周囲の視線がその瞬間、俺にも向かってきて、諦める。
俺は彼女に言った。
「あぁ、おはよう。咲耶」
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