第168話 通学

「じゃあ行ってきます」


 朝食を食べて、台所にいるであろう二人にそう言うと、


「気をつけてね、武尊!」


「お気をつけて〜!」


 という、母上と光枝さんの声が聞こえた。

 俺はそのまま玄関に向かい、家を飛び出す。

 今日から、俺も高校生だ。

 気術総合学院高等部──表向きには《私立四季高等学校》という──の一年生になる。

 中学まで、気術士は気術総合学院に属する、各地の学校に通い、四大家の家門は別々の学校に振り分けられていた。

 これは、それぞれの家門の秘伝を守るため、という意味合いが大きい。

 というのは、各地の学校で、気術の基礎を全ての気術士の子供が学ぶのはどこも同じなのだが、それに加えて自らの家門特有の術もまた、家で学ぶためだ。

 小さな頃は、流石に気術を扱えるとはいえ、子供であるために、同じところにまとまっているとどうしても、秘伝を話してしまう懸念がある。

 そのために、中学までは別々に、ということになっているらしい。

 それでも、四大家の交流は盛んで、パーティーなどで話したりすることは普通にあるのだが、そういう場所では親や親戚の目があるからな。

 流石に睨まれていては自然と秘伝のことなど話す余裕などなくなる、というわけだ。


 しかし、そんな分裂も中学までで、高校からは各地の学校から気術士の子供たちが集うことになる。

 とはいえ、四季高等学校──四季高は、表向き、私立の普通科高校としての顔を持っているので、一般人もおよそ半数程度は入ることになる。

 彼らは気術のことなど何も知らずに入学し、そして何も知らないまま卒業するのだ。

 つまり、高校において、気術を扱えるのは決められた場合だけで、それ以外は原則使ってはならないとされる。

 まぁ、バレないように使う分にはいいのだが、バレた場合はそれなりの罰則がある。

 場合によっては退学もありえ、そうなったときは気術士としての道が断たれる可能性もあるので、注意しなければならないらしい。

 ただ、俺はあまり気にしなくてもいいですよ、とは美智に言われているのだが……権力振りかざすようであれだからな。

 基本的には他のみんなと同じように気をつけて行きたいと思っている。

 ちなみに美智にそのような権力があるのは、学院の理事長だからだ。

 どうも、気術士の教育関係については北御門一門が多くを握っているようで、そのようになっているという。

 実際に理事長としての仕事をすることは少なく、ほとんど名前だけらしいが、しっかりと権力はあるらしい。

 我が妹ながら、すっかり権力者になったんだな、と恐ろしい気もする。

 その権力が俺に向けられないことを祈るばかりだが……そんなことする理由は特にないから、恐れる必要もないか。


 四季高までは徒歩と電車通学になる。

 俺の家、というか高森の屋敷は四大家がその拠点とする真富田まふだ市の隣の市である玉山市にあるため、玉山駅まで行って、そこから二駅分電車に揺られ、真富田駅に降りて、そこから徒歩、あるいはバスで向かう、という経路で行くしかない。

 なんで本家からこんなに遠いかって、これはやっぱり昔の高森の人間が、罪人扱いだったから、というのが大きいだろうな。

 本家から離れた位置に置かれた、と。

 今となっては真富田に家を購入してもいいのだろうが、高森の屋敷には様々な結界やら呪術やらがかけられているため、移動するのも手間である。

 それに現代においては車に乗れば大した距離でもないので、別に構わないというのがウチの両親の感覚だった。

 俺はだいぶ登校が面倒くさいのだが……まぁ、仕方ないか。

 そんなことを考えながら、電車に揺られ、バスの吊り革を掴みながら俺は四季高まで向かう。

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