第167話 中学卒業式
「……やれやれ。やっと卒業か……。長かったような短かったような」
壇上で長々とスピーチをしている中学の校長の念仏のような声を聞きながら、そう呟く。
すると隣に座っている咲耶が、
「小学校六年間に比べたらずっと早かったように思いますわ。この三年間は他の家門との関わりも少なかったですし、婆娑羅での活動も控えめでしたし」
そう言ってくる。
確かにそれはそうだな。
小学校六年間では色々とあったが、中学の三年間はかなり大部分を、普通の学生生活が占めた。
四大家の家門全体の子供が一堂に会するのは、高校に入ってからのことで、中学まではあまり他の家門との交流がないが故の、束の間の穏やかさではあったが。
婆娑羅についても、色々と出張したりなどはあったが、思いの外、妖魔たちも静かだった。
それが世界が平和であるからなのか、それとも嵐の前の静けさだったのかには議論があるところだが。
俺としては間違いなく後者であっただろう、と思っている。
一時、大量に増えていた合成妖魔の類も、ある時を境にぷっつりと出現しなくなった。
確かに一応、何度か合成妖魔を作り出していると思しき施設を突き止め、破壊したりはしたし、それが故にもう合成妖魔など作れなくなってしまったのだ、と理解することは出来なくはないのだが、どことなく不安感は残っている。
婆娑羅の上層部はもう問題ない、と考えているようだが……危機感が足りないと思う。
まぁ言ったところで俺は結局、平の隊員なので意見を取り入れられることは少ないが。
直属の上司くらいだな、聞いてくれるのは。
咲耶や龍輝に権力を振り翳してもらうことも出来なくはなかったが、それで変に目をつけられても困る。
婆娑羅はなんだかんだ、伏魔殿というか……俺たちが入ってから数年たち、《十席》の顔ぶれもかなり変わっている。
年老いて追い落とされた者が出てきているのだ。
たとえ年老いたところで、化け物のような気術士ばかりだったが、それでも若手が多く台頭してきているのだ。
まぁ、《十席》の座から引き摺り下ろされたところで、まだまだ影響力を保っていたりするなどしている者も多く、若手が完全に優勢というわけでもないのだがな。
そんなわけで、気術士界は色々と転換点を迎えており、色々と面白い状況にある。
そんな中、俺たちはといえば、あまり目立たないようにしながら活動をしていた。
零児が主導して立ち上げた新部隊の《
俺たちの力を目の前で見たことのあるような若手は大半吸収しているから、漏れることもない。
漏れてもせいぜい、咲耶の実力くらいだな。
龍輝と俺についてはノーマークだ。
ただ、これから先はそうも言っていられないだろう。
高校に入れば、任務の量や質もはるかに上がってくる。
十分な責任が取れる年齢だと気術士の間でも理解されるからだ。
今までも命は賭けてきたが、それでも若すぎるからと弾かれた任務は数多い。
それこそ、合成妖魔関係についてはその傾向が強く、どうしても調査が進まなかったんだよな。
密かに調べようと思ったことは何度かあったが、探知系に異様に強い《十席》やらなんやらがいたので、危険性を考えてやめておいている。
まるで何か隠し事があるかのようで、調べれば色々ボロボロと出てきそうではあるのだが、と思いつつのことだった。
まぁ、急いては事を仕損じるというしな。
高校に入れば、出来ることがかなり広がる。
報酬も正当なものになるし……。
「楽しみだなぁ……」
そう思った俺だった。
*****
あとがきです。
かなり思い切って時間を飛ばしてますが、間違ってるわけではないのでご了承ください。
中学三年間や、小学校高学年辺りにあった話は、ちょろちょろ挟んだりするかもしれないくらいの感じだと思っていただければと思います。
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