第166話 二週間後

「……仙術は、仙気をどのくらい消費するものなのですか? 限界などは……?」


 気になって俺が尋ねると、蓮華仙人は答える。


「消費はないな」


「え?」


「厳密に言うなら、消費はするが、限界はない。仙気はどこにでもある自然の気じゃ。それを扱い、自然を掌握・支配しているのじゃが、その場で使われた仙気は即座に他から流れ込んで元通りになる」


「それは……実質、無制限に発動させ続けることが出来ると……?」


 そうだとするなら、とんでもないことだ。

 まぁ、実際、俺にとって気術はまさにそのようなものになりつつあるが、仙術もそうなのだとしたら……。

 けれど蓮華仙人は言う。


「理屈の上ではな。じゃが実際には無理じゃろう。わしや月姑様ならば何日でも何年でも仙術を継続して扱い続けられるが、今の武尊には無理じゃ」


「それはどうしてですか?」


 首を傾げる俺に、蓮華仙人は言った。


「仙術は使い続ければ使い続けるほど、自然に近づくからのう。わしや月姑様は、何百何千年もの経験があるゆえ、特に問題は起こらん。しかし、今の武尊が同じことをやると……ほれ。気づけば風になっとる、という話じゃな。風ならまだマシじゃが、石塊とか土とかになってしまうかもしれんぞ」


 あぁ、なるほど。

 自然との一体化を十分に制御できなければ、結局無理ということか……。

 まぁ、そうだとしても、仙術の強力さは見ただけで分かった。

 これを身につけない選択肢はない。

 気術だけだと思っている相手にも油断させられるだろうし、見られたところで理解できる相手もほとんどいないだろうしな。

 切り札として考えても相当なものだ。


「恐ろしい話ですが……分かりました。十分に気をつけて修行しようと思います」


「うむ、いいじゃろう。ではまずは飛行術からじゃな……」


 そして、その日から俺の修仙の日々が始まった。


 *****


 仙気によって、体の周囲に存在する風、空気を掌握・支配する。

 空を翼で叩いて飛ぶというより、まるで水に浮かぶように、空気の中に浮かぶ、という感覚の方が近い。

 推進力を得る為には、風の力を借りる。

 背中を押すように、でもいいし、まるでジェット噴射のように背後に風を噴き出すやり方もある。

 また、空気の密度を変えたりしてうまく旋回したりとか。

 色々なやりようがある。

 その全てを、俺はここ二週間くらいで蓮華仙人から教わった。

 蓮華仙人の飛行術を見るに、飛行速度も旋回速度もとてもではないが完璧に身につけたとは言えないが、それでも、今まで全く空を飛ぶことなどできなかったことを考えれば、かなりの進歩だ。

 戦闘でも十分に使えるレベルであることは間違いない。

 また、自然術の方もしっかり教わった。

 そもそもある程度自然術を支えなければ、飛行術は使えないものだからな。

 というか、名前は違えど、結局どちらも同じ根から出てくる技術で、現れ方が違うだけ、のような気がする。

 はっきりとはまだ理解出来ていないが……それは俺がまだ修行不足だからなのだろう。

 

「ふむ、いいじゃろう。降りてこい」


 蓮華仙人が空に浮かぶ俺に向かってそう言ったので、俺は下降する。

 そして、蓮華仙人の目の前に立つと、彼は言った。


「とりあえずは形になった、というところかのう。あくまでも基本だけじゃが……たった二週間でここまで身につける奴は仙界長しといえども少数じゃ」


「ゼロではないんですね……」


「自惚れるでないぞ。お主程度は……まぁ、千年に一人くらいはおるからの」


 それでも千年に一人か。

 それは自惚れても良くないか?

 とちょっとだけ思わなくもないが、そういうのが後々足を掬うことは良くわかっているので、俺は蓮華仙人に、


「……分かりました」


 と頷いたのだった。


 ******


あとがきです。

こっからちょいちょい時間飛ばしていく予定なので、よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る