第164話 仙術の例

 それからは、毎日俺と澪は瞑想をすることになった。

 俺は仙気を感じて、自然との一体化をうまくコントロールするために。

 澪は仙核を作るためにだ。

 しかし、当初考えていたよりどちらもかなり難航している。

 これだと一応、今回仙界にいると決めていた期間では完成させることは出来なさそうだ。

 まぁ、そもそも一朝一夕でなんとかなる、とは露ほども考えていなかったから、予定通りと言えば予定通りなんだけどな。

 それに俺の場合、仙核を作るところまではできているわけだし、予想以上の成果を得たとも言える。


「……一つか二つ、仙術を覚えて帰りたかったんだけどなぁ……」


 瞑想の合間に、ぽつり、とそう俺が漏らすと、蓮華仙人が言う。


「ふむ、では飛行術くらいは教えておくか? それと、自然術も簡単なものならすでに扱える域じゃろう」


「え? まだ自然との一体化をできていないのですが、それでも使えるものなのですか?」


 俺は仙術を使うためにそれをしようとしているのだ。

 だから、当然、自然との一体化ができていなければ、仙術を使うことができないと考えていたのだが……。

 これに蓮華仙人は首を横に振る。


「先に言うと欲が生まれると考えて黙っていたのじゃが、お主はすでにある程度仙気を操れておる。それだけの技量があるのならば、基本的な仙術を扱うのに問題はない。より高度な……天候術や変化術、地形術などの類はしっかりと自然との一体化を制御できなければ無理じゃがな」


「そうなのですか……それなら、願ってもないことです。ぜひ教えていただけるとありがたいです。それにしても、天候術や変化術、地系術とは?」


 いずれも聞いたことがないものだ。

 いや、似たようなものであれば、気術でもあるが、仙術のそれとは全く異なることは想像がつく。 

 気術で出来るのは、例えば天候であれば、雨を降らすために儀式をして雲を呼ぶとか、変化をするなら別人の見た目に変わるとかだな。

 地形術は……これは想像がつかないな。

 地形を変えるのか? どうやって?

 そんな感じだった。

 そんな俺の質問に、蓮華仙人は言う。


「ふむ、天候術はそのままじゃ。雨を呼び、雷を落とし、雪を降らせ、日照りを起こす。簡単じゃな。変化術は……ほれ、こういうものよ」


 その瞬間、ふわりと蓮華仙人の周りを霧が多い、姿が見えなくなる。

 そして次の瞬間、霧の中から巨大な猫科の手足が飛び出してきた。

 これは……虎だな。

 しかし普通のサイズではない。

 体長が五、六メートル以上ある。

 普通の虎の二倍か三倍の大きさだ……退席となるともっとだろう。


「別の容姿になれる、ということですか?」


「うむ。しっかりと実態もあるぞ。まぁ、場所が場所じゃから、このくらいのサイズに抑えてるが、大きさも山くらいまではなれるな。気術でもおそらく似たようなものはあるじゃろ? 仙術を基礎に作り上げられた体系なのであろうし」


「……確かにあるにはありますが、せいぜい、別の人間の見た目になるとか、そのくらいですよ。動物などにもなれますが、大きさは……山ほどになるのはまず無理です」


 今、蓮華仙人のなっている虎程度の大きさまでなら、なれなくもないだろう。

 専門的に研究している家門なら、もっと大きくなれるかもしれない。

 それでも、山は無理だ。

 それに、かなりの真気を使用するだろうから、必然的に持続時間は短くなる。

 常用できるような術ではないはずだ。

 それなのに、蓮華仙人はだいぶ余裕そうだ。

 山ほどになろうとも、いくらでも維持できるのだろう。

 これが、仙術の極みか……。

 とんでもないな、と改めて理解させられる。

 規模感が、気術とはまるで違う。

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