第161話 魂の強度
「そういうものですか……」
俺がそう呟くと、蓮華仙人は、
「まぁ、土地神は基本的な仕事以外には気分屋じゃからな。あまり考えても仕方がない」
そう言ったので、俺は頷いて言う。
「承知しました」
それから蓮華仙人は、
「では、仙術の話に入っていくぞ。これについては澪も良いな」
「はい」
俺がそういうのに続いて、澪も、
「はい!」
と元気よく頷いた。
ついにか、と思って身構えるが、
「あまり緊張するでない。仙術を使うのに一番大事なのは、無為自然。自然体であることじゃからな」
「それは聞きましたが……」
「しつこいと思っておるじゃろ? じゃが本当に大事なのじゃ」
「そこまでですか」
「うむ。まず仙術というのは、そこから始まるからのう。自らを自然と成し、仙気を操り、そして自然を支配する……そういうものじゃ」
「支配、ですか?」
無為自然、という言葉からは程遠いような気がする単語で、俺は首を傾げる。
そんな俺の考えを見抜くように、蓮華仙人は言う。
「少し違和感を覚えるかもしれんな。しかし、これは大切な部分じゃ。もしも本当に完全に自然と一体化してしまったらまずいゆえな」
「ええと……?」
どういうことか分からずに視線を蓮華仙人に向ける。
すると、彼は言った。
「自然と完全に一体化すれば、その者は自然そのものとなってしまうのじゃよ。たとえば、風を感じ、風になる。これは確かに仙道としては正しい在り方じゃ……しかしあまりにも正しすぎる。その場合、風になったっきり、永遠にそのままになるということじゃ」
「……戻れないと?」
「その通りじゃ。風が人になりたいなどと考えるか? そういう風になるなら……それは当然戻れん。いや、戻ることなど考えもしなくなる」
「……思ったより、仙術の修行に危険を感じるのですが……」
「そりゃそうじゃ。安全に身につけられるのなら、皆、挑戦しておるじゃろうて。ただ、心の持ちようでそういう事態は回避できる。それとその際に重要になるのが、魂の強さじゃな。自己の強さと言い換えてもいいが……」
「そういえば、魂が鍛えられていなければ仙人にはなれないと以前おっしゃっておられましたね」
「うむ。それはここでの話に関係してくるわけじゃ。人の身体の中で、最も自然と霧散しやすいもの、自然へと還りやすいものこそが、魂よ。強烈な自己と、鍛錬によって維持し続けなければ、それこそすぐに消滅してしまう」
「しかし、我々はこうして普通に存在しているのでは……」
そんなに霧散しやすいなら、今すぐ霧散してもおかしくないような。
そう思った俺に、蓮華仙人は言う。
「それは、肉体という檻があるからじゃ。これは強固に魂の霧散を防ぐ。その理由は……ほれ、生き物ならば、無意識にその体を覆う、真気のお陰でもある。しかし、肉体を失えば、通常、魂などすぐに霧散する……そしてそのまま冥界行きじゃ」
「霧散するけれど、冥界に?」
「冥界に行くのは、魂の最も本質的な部分ゆえな。大半は霧散する……。そして残った部分だけでは、自己を維持するのは難しい。冥界のような、魂のみでの存在を許すような特殊な場所でない限りはな」
思えば、温羅といたあの大結界も、そのような場所だったのか。
だから俺は消えずにいられたわけだ。
「……なるほど。しかし、通常はどうやって魂を鍛えるのですか?」
「瞑想や、仙術による外部刺激などじゃな。他に山籠りや洞窟篭りなどがあるが……まぁ、これはお主には関係ない。魂はすでに鍛え上げられておるゆえ。澪の方も大丈夫じゃろう。龍の魂は元から堅牢じゃからな」
「龍にはそんなアドバンテージが……」
なんだかずるい気がするが、そもそも肉体からして強度が違っているからな。
魂もそうであって何もおかしくはないだろう。
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