第160話 土地神

「それについては、ほれ。おそらくお主に所縁ゆかりの者がこの仙界に縁づいているから、じゃろうな」


 蓮華仙人がそう言った。


「所縁のもの……」


「親族や、祖先などじゃが……お主の場合は、北御門の初代、ということになるかの? 高森の初代も多少関係はあるが……」


 そこまで言われて理解する。

 俺の高森の血が、この仙界に関係しているから、こちらの土地にも縁づいているということなのだろうと。

 光枝さんによれば、高森の初代は他の世界に《渡る》ことが出来た人で、仙界に光枝さんを繋いだのも初代だというし。

 仙人や道士だったようではないようだが……関係はしていることは間違いないだろう。

 だとすれば、もしかしたら、北御門ということなら魂の方かもしれないが……いや、その両方か?

 考えて見るが、断定はしかねるところだ。

 そんな風に悩む俺の様子がわかったのか、蓮華仙人は言う。

 

「……あまりその辺りは深く考えすぎることはないぞ?」


「え?」


「考えてもわからぬことかもしれんから。例えば、お主が人界で、今住まう土地より別の地に出向いたとしよう」


「……はい」


「そこは生まれた土地より遠く離れた場所じゃ。したがって、地脈から真気を本来受けられない場所じゃった。けれど、なぜかその場所でも、地脈から力を得られてしまった……そういうことが起こった場合、なぜじゃと思う?」


 それが今まさに起こっていることだが……いや、人界と仙界だと事情が違うか?

 俺は考えてから答える。


「……やはり、その土地に縁があったから、では? 親族家族に、その土地出身の者が……」


「うむ。じゃが、そうだとして、それが誰だか分からないこともあるじゃろう? 祖父かもしれんし、さらにその祖父かもしれん。もしくは、叔父になのかもしれんし、または先祖の誰かかもしれん」


「そこまで遡ってもそういうことが起こるのですか?」


「それについてはなんとも断言しかねるところじゃ。その土地の、産土神うぶすなかみの気分次第じゃからな」


「産土神ですか……」


 これは、神の名がついているが、唯一神とかそういう、絶対的な力を持つ何かのことを指していない。

 いわゆる土地神のことで、力ある霊獣などの存在がその座につく。

 仙人であることもあるとは言われているが……どちらにしろ、まず、出会えることはない。

 たとえ気術士であってもだ。

 彼らは基本的に人とは会わない。

 その土地の管理をすることが役目で、それを終えればいずれ、本当の神へと昇神していくからだ。 

 土地神とはその過程だとも。

 しかし、そういう存在であるだけに、その詳しい仕事について、人間はあまり多くを知らない。

 それでも確かに地脈の管理も含まれると聞くが……本当のことのようだな。


「地脈はその土地の土地神が管理するもの。それと繋がれるのは、土地神にお主が認められているからじゃ。仙界だと地脈の管理は土地神とは限らんから少し話が変わってくるが、仕組みは近いゆえな。まぁ、人界じゃとそういうわけで、その土地の土地神が、これと認めた人間、そしてその家系に多くの力を与える……仕組みは知らずとも、心当たりはあるじゃろう?」


「あります。というか、それが故に、気術士は生まれ育った土地を拠点とし、かつ、その場所周辺を持ち場として守ることが多いです。地脈と繋がっているような気術士はまずいませんから、他の土地に出張に行くこともしょっちゅうですが、生まれ育った土地だと危機に陥った時の踏ん張りが違うとか、なぜか死ぬような危険でも助かったなどといった話はよく聞きます。そういうことでしょうか?」


「うむ、まさにじゃ。土地神が力を貸したのじゃろうな。地脈に繋がることまで許すのは、よほどの場合に限られるが……まぁお主の場合、そのよほどじゃったのじゃろうて」

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