第159話 仙気と真気
「……さて、それでは修仙を今日から始めるわけじゃが、準備は良いかの?」
次の日、蓮華仙人が彼の家の前に集う俺たちにそう言った。
彼の隣には勿論、月姑仙女がおり、そして俺たちというのは俺と、澪と、光枝さんのことである。
「はい、大丈夫です。でも、昨日始めても良かったように思いますが」
昨日、仙人達が帰ってきたのは昼頃だ。
時間には十分余裕があったのだが、今日にすべきと言われて、まぁ仙人であっても疲れるか、と思って普通に頷いていた。
しかし、実のところ、別に彼らの疲れが理由ではないらしい。
蓮華仙人が言う。
「確かにそう思うかもしれんが……というか、そもそも仙核を作れてないのであれば、昨日からやっておったよ。しかし、仙核を作ってしまったのであれば、馴染ませる時間は取っておいた方が良いからのう」
「仙核を馴染ませる?」
どういうことだ?
首を傾げる俺に、蓮華仙人は言う。
「仙核を作ると、体内の気のバランスが変わるのじゃ。それに伴い、体そのものの作りも変化する。仙気を扱うのに適切な体へとのう。まぁ、仙核を作っただけではそれほどでもないが、これを完全に意識的に進めると、最終的には不老になるんじゃな」
「なるほど……」
気のバランスが変わる、というのは実感があるな。
澪に流れる真気の量の変化もその辺りから来ているのだろう、と思う。
真気は本来、誰でも持っているものだが、これを意識的に使えるのは俺たち気術士たちだけだ。
しかし、普通の人間が全く使っていないのか、というとそういうわけではなく、日々、肉体を動かしたりするのに微量に消費している。
また、彼らには見えないほど存在の小さな妖魔などが、変にちょっかいをかけてきても、精神や肉体を守るために、これまた無意識に微弱な防御壁のようなものを体内に展開しているのだ。
まぁ、本能的なもので、しかも破ろうと思えば簡単に破れるものなので、気術を扱えているとはとても言えない程度のものだが。
ともあれ、そういう防御というのは気術士の体内でも働いているのだが、仙気を知覚してから、そういうものが俺の体内から消えた。
そして、それと後退するように、仙気こそが俺の体の内外を覆っている感じがするのだ。
これが、体内の気のバランスの変化なのだろうか。
そんなことを蓮華仙人に言うと、彼は頷いて答える。
「まさにじゃ。仙気による守りの方が、真気によるそれよりも原理的に強力じゃからのう。仙気で守られるようになった故、真気の方は必要ないと体が判断したのじゃろうな。そして、お主から澪に流れる真気が増えたというのは、そこにも理由があるじゃろう」
「それはどういう……?」
「つまり、お主が普段から無駄に消費している真気がなくなったゆえ、それが澪に流れる分に加算されているのじゃ。お主はもはや、どれだけ真気を失っても死んだりはせぬからな。仙気があるゆえ」
真気は急激に失えば、それだけで死ぬ可能性もあると言われる。
もちろん場合によるし、死なないこともあるのだが、真気を必要以上に減らしてしまうのは危険だ。
しかし、今の俺には、仙気があるから、そういう誓約もないということか……だとすれば、通常なら、かなりありがたいことだな。
真気はある分、目一杯使えるということになるから。
まぁ、俺の場合は、真気はいくらでも地脈から確保できるので問題ないが……。
でも、そういえば……。
「真気で思い出したのですが、俺はなぜ、この仙界においても地脈から力を吸えているのでしょう? 地脈の力は、ゆかりのある土地でなければ無理だと聞きましたが……」
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