第158話 家に

「おや? 蓮華仙人と……もう一人は誰じゃ?」


 蓮華仙人と月姑仙女と共に家に入ると、澪がそう言って首を傾げた。

 それも当然の話で、誰を連れてくるとも言ってなかったからな。

 しかもここは仙界なのだ。

 来た人が尋常な人とも思えないのだろう。

 俺だって月姑仙女を見たときは警戒した。

 だから俺は澪に説明する。


「この人は月姑様だよ。仙女で……澪の修仙の師匠になるためにやって来てくれたらしい」


「わしの? 蓮華仙人ではいかんのか?」


 と澪が言うと、月姑仙女が、


「悪くはないが、人と龍とではやり方が違うのだ。そのため妾が教えた方が効率的なのでな」


「そうなのですか……」


「不服か?」


「いえ……わしはあくまでも武尊のついでに修仙できないかと思って来たもので、それなのにわしだけのために仙女様のお手を煩わすのはどうなのか、と思いましてのう……」


 流石の澪も、仙女に対しては丁寧な言葉遣いである。

 蓮華仙人に対してもそうだ。

 一応の主人である俺に対しては凄くフランクなのに……。

 まぁ、だからと言って不服ということもないが。

 むしろあまり丁寧にされ過ぎても困るしな、俺の場合。

 十歳の子供と十四、五歳の子供がいたとして、後者の方が前者に対して敬語では何がおかしく思われてしまうだろう。

 良いところの子供なのか?くらいならまだ良いが、そこから誘拐とか計画されてはたまったものではないからな。

 俺にしろ澪にしろ、撃退は容易だが、後処理にかける手間と労力が無駄だ。


「そんなことは気にしなくても構わぬよ。妾が好きでやることであるしな。そもそも、仙界は退屈でのう。教え甲斐のありそうな弟子が持てるのは妾も嬉しい」


「そうですか……では有り難く。しかしそれにしても……なんだか武尊の雰囲気が若干変わっているような? 武尊から流れてくる真気も大きくなっている気がするのじゃが……?」


 挨拶も終えて周りを見る余裕も出てきたのか、澪は俺の変化に気づいたらしい。

 それに澪側にも変化があったようだ。

 俺から流れる真気が増えてるのか。

 仙気の方は流れてないのかな?

 いや、流れていたとしても、澪にはまだ知覚できないだけかもしれない。

 澪の言葉に答えたのは光枝さんだった。


「……どうやら武尊様は仙道としての一歩目を踏み出されたようですよ」


「んん? どういうことじゃ?」


「仙人になるには、仙気を知覚し、それを操り、そして仙核というものを作る必要があるのですが……武尊様は仙核を既にお作りになったようです」


「ほう、それは……何じゃ、そんなに簡単に作れるのか? さっきまでそんなものなかったじゃろ?」


「いえいえ、大変に難しいことですよ。普通なら、何十年もかかります。特に人間であれば……それなのに、もうなんて。察するに先ほど仙桃をお食べになったのですよね? そしてすぐに?」


「あぁ、そうだな。何となく出来たんだ……」 


「何となくって。気術士としての才能も昔から尋常ではありませんでしたが、仙人としてのそれまで同じとは。私程度なら即座に追い抜かれてしまいそうです……」


「いや、それはどうかな?」


 こうやって仙核を持ち、仙気を感じ取れるようになると、仙人の格というか実力も大雑把に分かるようになる。

 そしてその感覚からすると、光枝さんは今の俺よりもだいぶ格上の存在のように感じられる。

 やはり、数百年も生きているだけあるというか……。

 謙遜して仙狐とまでは自分を呼べないと以前言っていたけれども、本当にただの謙遜だったのかもしれないなと今なら思う。

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