第155話 仙桃
「澪にですか? それはまた、どうして……」
俺は首を傾げた。
別に澪に興味を抱くのがおかしいと思っているわけではない。
そうではなく、澪は今回、あくまでも俺のついでみたいな形でついてくることになっただけだからな。
彼女もまた、龍として修仙するというから、結局は立場として同じなのだが……。
そんなことを考える俺に、月姑仙女は言う。
「うむ。蓮華は人間から登仙した者だからのう。同じ人間に教えることは得意だろうが、澪は龍なのだろう? それならば、
「ええと……月姑様は……人間ではない? いえ、仙女であることは分かるのですが……」
この疑問に、月姑は答える。
「そうだな。仙人には色々とおるが……その起源から大きく三つに分かれる。まず、蓮華のような者。つまりは人間から修仙し、道士となり、そして仙人に至ったもの」
「それは分かります。他の二つは……?」
「もう一つは、人間以外の動植物から仙人になるものだな。人間の場合と同じように、道士となり、仙人へ至るのは変わらないが、人間とは異なる悟りを得なければならない」
「月姑さまは、それだと……?」
「妾は最後の一つよ。
「初めから……?」
どういうことだ。
仙人というのは、悟りを得てなるもの、なのでは……。
「後天的に仙人になる者は、確かに修行が必要なのだがな。妾は両親が仙人で、かつこの仙界で生まれた。したがって、生まれたその時からすでに悟りを得ていた」
……そんなことがありうるのか。
チートだ。
ずるだ。
そんな気がしてくるが、しかし両親が仙人など、滅多にあることではないか。
月姑は続ける。
「とはいえ、いいことばかりでもないがな」
「え? 最初から修行なしで仙人になれるのであれば、いいことばかりでは……?」
「いいや。妾は最初からこの世界に馴染んでしまっているゆえ、人界に行くのが大変厳しいのだ。行く方法がないわけではないが、力はかなり落ちる。また、場合によっては死ぬ可能性もある」
「それは……」
かなり大きなデメリットではないだろうか。
通常の人間にはあり得ない、大きな力を持っているというのに、それでは……。
「まぁ、人界には滅多に行かぬし、気にするほどでもないことかもしれぬがの。ただ、お主らのことがあるゆえ、これからは少しは人界にも足を運びたいものだ」
「大丈夫なのですか?」
「問題はない。仙桃を食えば、力は落ちると言っても身の安全くらいは確保できるだろうて」
「仙桃にそのような効果が……」
「本来の使い方はそちらでな。仙人が向こうに行くために食べるものなのだ。ただ、人間が食えば仙人となれる素質を得られる……と、そうだった。そのために来たのもあったな……これが仙桃だ」
そう言って、月姑は桃を取り出した。
と言っても、日本のスーパーでよくみられるあの形の桃ではない。
これは蟠桃と呼ばれるものの形だな。
実際、仙桃が栽培されているらしい果樹園のことを、蟠桃園と読んでいるようだし、そういうことなのだろう。
「これを……普通に食べればいいのでしょうか?」
「そうだ。仙気を得るためとはいえ、そもそもかなり美味だからな。味わって食うと良いぞ」
「美味しいんですか……」
良薬口に苦しというか、苦痛を伴う危険も考えていたので、それはありがたい話だった。
「これよりうまい果物を妾は知らぬ。さぁ、食べるが良い」
そして俺の手に仙桃が手渡された。
皮をどうするか迷ったが、剥がして効果半減とかは避けたいと思い、とりあえず俺はそのままかぶりつくことにした。
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